EU排出権削減ショック

 

 「欧州委員会の決定は、理解しがたい」。ドイツ連邦環境省のS・ガブリエル大臣は、先月29日にEUが、CO2排出権の割り当て量を削減したことについて、こうつぶやいた。ベルリン・ブリュッセル間の緊張関係は、一気に高まった。

欧州委員会は、2008年から2012年までの、CO2の年間排出量を決めたNAP(国家割り当て計画)Uの中で、ドイツが1年間に放出するCO2の上限値を、4億5310万トンとした。環境省は排出量を、当初予定していた4億8200万トンから、4億6500万トンに減らしてEUに申請していたが、EUはドイツが申請していた排出量をさらに2・6%引き下げたのである。

環境省からは、「EUは上限値の算出方法を、説明するべきだ」という声が出ている。また「この削減によって、電力業界と、エネルギー集約型の産業に大きな負担がかかる。電力価格がさらに上昇するかもしれない」という指摘もある。EUの決定は、原子力業界にとっては、追い風となりそうだ。たとえばM・グロス経済大臣は、「原子力発電所を、全て稼動させ続けなければ、EUの基準は達成できない」と述べ、脱原子力政策の見直しが必要だという見方を打ち出している。

ドイツ政府は、新規建設される発電所について、14年間にわたり排出権を多く割り当てる方針だった。電力会社に、余剰排出権の売却を許し、発電所建設を促進するためである。だがEUが「一種の補助金だ」として、この計画を批判したため、ドイツからは「EUから過剰な負担をかけられて、投資が阻まれるのはかなわない」という声が聞かれる。

EUの環境担当委員S・ディマス氏は、「各国が提案したCO2削減量は、十分ではなかった」と述べており、強硬姿勢を崩していない。排出権をめぐる論議は、再び激しくなりそうだ。

電気新聞 2006年12月