メルケル政権・脱原子力と再生可能エネ振興を継続へ
ドイツでの総選挙から2ヶ月も経った11月22日に、CDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)とSPD(社民党)からなる大連立政権が、正式に誕生した。
* 砕かれた期待
メルケル首相が、選挙前に「脱原子力合意を見直し、運転中の原子炉の稼動年数を延長したい」と述べていただけに、この国の電力業界や産業界は、「シュレーダー政権のエネ政策が大きく方向転換するかもしれない」という期待を抱いていた。
しかし、保守党側が過半数を確保できなかったために、SPDを政権に参加させたことで、メルケル政権が、環境重視のエネ政策を継続することが、ほぼ確実になった。電力業界の脱原子力見直しへの期待は、打ち砕かれたのである。
* 再生可能エネ拡大へ
そのことは、環境大臣に就任したジグマー・ガブリエル氏(46歳)が、11月26日にボンの「再生可能エネ世界会議」で行った演説に、はっきり表われている。彼は「原子力は、再生可能エネルギーに取って代わるものではない。
化石燃料による地球温暖化のリスクを減らすために、原子力のリスクを受け入れることはできない」と断言し、太陽光・風力発電を振興してきたシュレーダー政権の政策は、正しかったと述べた。そしてこの振興政策を、「再生可能エネの利用を、世界に先駆けて増やす原動力」として高く評価し、原油への依存を減らすために、今後も再生可能エネの拡大を積極的に進める方針を明確に打ち出した。
* 環境派に迎合?
彼が演説の中で使った「原油よ、さらば(weg vom oel)」という言葉は、緑の党が選挙期間中に使っていたスローガンであり、ガブリエル新大臣が、環境保護を重視する勢力に、迎合しようとしていることを暗示している。
かつてニーダーザクセン州の首相だったガブリエル氏は、環境問題の専門家ではない。彼はもともと環境保護派ではなく、むしろ地元の重要な企業であるフォルクスワーゲン社の利益を重視したり、緑の党の脱原子力や資源リサイクル政策に懐疑的な立場を持ったりする、SPDの穏健派・実務派に属していた。
そのガブリエル氏が大臣就任早々、一転して緑の党を思わせるような、再生可能エネ重視の路線を明確に打ち出した背景には、SPDの左派勢力や環境省内のエコロジー主義者たちの離反を防ぐという狙いがあると見られている。
* 脱原子力に変更なし
CDU・CSUとSPDの間には、脱原子力をめぐり大きな意見の違いがある。だが両党は、社会保障改革や財政均衡などに比べて、エネ政策は重要でないと判断し、大連立政権の破綻を避けるために、現状維持という形で折り合いをつけたのだ。両党が11月に発表した連立協定には、「原子力発電に関する意見の相違をなくすことができなかったので、脱原子力を定めた、2000年6月14日の原子力法には変更を加えない」と明記されている。
あとは、「放射性廃棄物の最終貯蔵処分場の決定を急ぎ、エネルギー・ミックスに関する総合的なエネ政策が必要だ」と述べているに過ぎないが、これは目新しいことではない。財界が求めていた、原子力発電と再生可能エネに関する政策権限を、環境省から経済省に一本化するという計画も、実現しなかった。
両党は、2020年までに再生可能エネが発電量に占める比率を20%に高めるという目標を維持する予定だ。批判が強かった振興の方式についても、効率が悪い内陸部には風力発電装置を設置せず、海上への新設を重視することを除けば、当面は変更を加えない。
原子炉の新設はもちろん、原子炉の稼動年数延長についても、今のところ具体化の可能性は薄い。二大政党に有権者が不信感を表し、国政を二ヶ月にわたり麻痺させた投票結果は、エネ政策にも大きく影を落としているのだ。
電気新聞 2005年12月28日