独電力会社の「不明朗退職金」で野党幹事長辞任
ドイツ・エッセン市に本社を持つRWEは、この国で最大のシェアを誇る電力会社だが、去年12月に、政界をゆるがすスキャンダルに巻き込まれた。
* 幹事長に多額の支払い
最大野党キリスト教民主同盟(CDU)のラウレンツ・マイヤー幹事長が、2000年5月までに出身会社であるRWEから約13万ユーロの振込みを受けていたことがわかり、世論の批判を受けて幹事長の職を辞任したのである。
マイヤー氏はフルタイムの政治家として働いていたにもかかわらず、RWEから電気料金の割引を受け、2001年5月までは給料も支払われていた。
彼は1975年から電力会社VEW(後にRWEと合併)で働くかたわら、勤務時間外にCDUの地方支部で活動し、1990年にノルトライン・ヴェストファーレン州で州議会議員に当選した。
そして1999年には同州議会でCDUの議員団を率いる院内総務になったため、VEWは、当時部長職にあったマイヤー氏との間で、「休職扱いとするが、院内総務の職を離れれば、VEWに復職できる」という契約書に調印した。
同時にVEWは、マイヤー氏の「業務の引継ぎ」と「未消化の休暇」の代償として、同氏に2回に分けて13万ユーロ(約1800万円)の「特別退職金」を支払うことを約束したのである。
社を去る部長に対する待遇としては、破格である。
* 仇となった復職規定
この寛容な復職規定が、彼にとって命取りとなった。
CDUが2000年6月の州議会選挙で敗北したため、マイヤー氏は責任を問われて、1年足らずで院内総務の座を追われた。
このため彼は、契約通り電力会社に復職しVEWから給料をもらう身になった。
ところが、マイヤー氏は同年10月に突然CDUの党首によって幹事長に抜擢され、きゅうきょ中央政界のスポットライトの中に立つことになったのである。
ただし彼は党に対して、電力会社から金を受け取っていたことを、完全に報告していなかった。
特に彼がVEWに復職したにもかかわらず、「特別退職金」を受け取ったことには批判が集中し、CDUもマイヤー氏が幹事長の座にとどまることは、党にとって百害あって一利なしと判断した。
RWEは内部調査の結果、「マイヤー氏が復職したのに、特別退職金が全額支払われたのは、社内の連絡ミス」として、政治家に影響を及ぼすなどの意図はなかったことを否定した。
* 企業統治を強化へ
だがマイヤー氏の件は氷山の一角で、RWEの社員だったノルトライン・ヴェストファーレン州の別の州議会議員も、会社で全く働いていないのに、RWEから毎年6万ユーロ(840万円)の給料と電力料金の割引を受けていたことが、明らかになった。
これらの支払いは、法律に触れるものではない。しかし庶民感覚では、最大野党の幹事長が、大手電力会社から給料や電力料金の割引を受けたり、復職しているのに10万ユーロを超える「退職金」をもらったりするのは、理解しがたいことであり、「癒着」と見られても仕方がない。
RWEのハリー・レールス社長は、「この件の社内での処理の仕方には問題があった。人々の怒りは理解できる」と述べ、今後は社内でコーポレート・ガバナンス(企業統治)の原則を徹底することを約束した。
* 企業イメージに深い傷
RWEでは6万人の社員の内、約200人が勤務時間外に政治活動を行っているが、本業に支障を及ぼしたり、党の要職についたりしない限り、政党でボランティアとして活動することには、全く問題がない。
むしろ電力という公共性の高い商品を扱い、地方自治体や政府の許認可を受ける必要があるエネルギー関連企業にとって、地方議会に社員を送り込んだり、政界との距離を縮めたりすることは、重要かもしれない。
だが、託送料金が他の欧州諸国に比べて高いことや、2005年に電力料金を約5%値上げすることについて、電力業界が世論の批判にさらされている中、RWEが社内の連絡ミスとはいえ、政治家に多額の金を支払っていたことが、マーケットリーダーである同社のイメージを損なったことは否定できない。
同社がドイツの消費者の信頼を回復するには、かなりの時間がかかりそうだ。
電気新聞 2005年1月26日