原子力発電所を煙幕でテロ攻撃から守れるか?

世界中を震撼させた同時多発テロから丸3年経ったが、ビン・ラディンらアル・カイダ幹部の身柄が依然として確保されていないなど、米国がアフガニスタンとイラクで進めている「対テロ戦争」は難航している。

米国政府は、「9・11事件並みの大規模なテロ攻撃が将来も行われる可能性を捨て切れない」としているが、その中でも強く懸念されているのが、テロリストが旅客機を乗っ取り、原子力発電所に墜落させるケースである。

ドイツでは、こうした事態にどう対処するかについて、現在政府と電力会社を巻き込んで激しい議論が行われている。

* 一部原子炉の早期閉鎖を要求

そのきっかけは、今年二月に連邦放射線防護局のW・ケーニヒ局長が、「空からのテロ攻撃に対して、特に脆弱である」という理由で、フィリップスブルグ1号機、イザー1号機、ブルンスビュッテル、ビブリスA、オーブリヒハイムの5基の原子炉を、脱原子力合意が定める期限よりも早く閉鎖するよう求めたことである。

同時多発テロ直後、連邦放射線防護局は、ボンの「原子炉安全協会(
GRS)」に対し、国内の原子力発電所が、空からの攻撃に対しどの程度の耐久性をもっているかについて、研究を行うよう極秘に指示した。

そして同局は、去年初めに
GRSが提出した鑑定書を分析した結果、稼動してから20年から30年経っている5つの原子力発電所で、テロ攻撃へ耐久性が弱いという結論に達したのだ。

GRSは、2001年末に稼動していた19の原子炉について、エアバスA320型やボーイング747型など4種類の旅客機が、秒速175メートルないし100メートルの速度で、原子炉を格納している建物に突入した場合の被害を、コンピューター・シュミレーションによって解析した。

* 一部の炉の脆弱性を指摘

報告書は、旅客機の衝突による衝撃と、航空燃料がもたらす火災の両面を考慮している。

その結果、イザー2号機、エムスラントなど、1980年代以降に稼動した7つの原子炉では、ボーイング747などの大型の旅客機が衝突しても、建屋の外壁が破られたり、一次冷却系が破壊されたりするには至らず、迅速に対応すれば、放射性物質の外部への拡散などの事態を防げることがわかった。

これに対し
GRSは、「フィリップスブルグ1号機、イザー1号機など5ヵ所の原子炉については、最悪の場合、建屋の天井や旅客機の破片が原子炉圧力容器の上に落下して、一次冷却系を破壊し、航空燃料による火災によって、大量の放射性物質が、外部に放出される可能性がある」と結論づけている。

ケーニヒ局長は、この報告を受けて「ドイツの電力会社は、同時多発テロ以降、安全措置を強化する必要があったにもかかわらず、十分に責任を果たしていない」と批判的な見解を打ち出している。

* 煙幕で原子炉防御?

局長の発言に対し、電力会社は一斉に反発。特にフィリップスブルグ1号機を管理しているEBW社は、「連邦放射線防護局の批判は、理解に苦しむ。特に、我々が安全対策を講じていないという指摘は的外れだ。防護局の仕事は安全措置に関する客観的な議論に寄与することであり、批判的なコメントによって、市民の不安をかきたてることではない」という声明を出し、ケーニヒ局長の発言を批判した。

さてドイツの電力業界は、空からのテロに対する防護策を具体的には公表していないが、関係者によると、原子力発電所の周りに煙幕を発生させる装置を取り付け、旅客機を乗っ取ったテロリストが目標を見つけにくくするというアイディアが出されている。

だがパイロット協会や連邦環境省では、「
GPS(全地球方位システム)を使えば、煙幕で原子力発電所が見えなくなっても、旅客機を目標に向けて誘導することは可能であり、十分な防御策とは言えない」と指摘している。

また原子力発電所の周りに対空ミサイルを設置する案については、飛行ルートを外れた旅客機を打ち落とす危険があるとして、電力業界は消極的な姿勢を取っている。

テロの暗雲が、世界中に重く垂れ込めている中、ドイツの電力会社は、今後も原子炉の防御策について、政府からの強い圧力にさらされそうだ。

電気新聞 2004年9月22日