エネ・サミットの勝者は?

 

 ベルリンの連邦議会議事堂の近くに、連邦首相府のモダンな建物がある。メルケル首相はここで今年4月4日に、長期的なエネルギー政策を話し合う「エネ・サミット」の第一回会合を開いた。

出席したのは、グロス連邦経済大臣、ガブリエル連邦環境大臣の他、電力会社RWEEONEnBW、ヴァッテンフォールの社長、ダイムラー・クライスラー、BASFなど大手メーカーの社長、消費者団体会長、国連環境プログラム(UNEP)の事務局長、エネルギー業界労組の委員長など27人。

この会議が実現したこと自体が、電力業界や経済界の意向を強く反映している。電力会社や経営者団体は、「シュレーダー前首相の赤緑政権は、脱原子力後の長期的なエネルギー政策を示さなかった」という強い不満を持っていた。この戦略会議は、大連立政権に加わったCDUCSU(キリスト教民主・社会同盟)の強い後押しで、実現にこぎつけたものである。

 大連立政権の中で、脱原子力政策をめぐる意見は、真二つに分かれている。
CSUのグロス経済大臣は、脱原子力合意を見直して、原子炉の稼動年数の延長を認めるべきだと主張している。一方SPD(社会民主党)のガブリエル環境大臣は、延長に強く反対している。

実はメルケル首相は、会議が開かれる二週間前には、「脱原子力問題は、サミットで取り上げない」と発言していた。両党の間の意見の違いがあまりにも大きいためである。

 これに対し、
CDUCSUと産業界は猛反発して首相の弱腰を批判したため、メルケル首相は方針を変更して、この問題をサミットの議題に含めることにした。その意味では原子力推進派が、SPDの環境保護派に対して、最初の勝利を収めたということができる。

ドイツ政府は、サミット後に発表した声明の中で「将来のエネ・ミックスの中で原子力が果たす役割については、異なった意見が出された。我々は、停止する原子炉を代替する発電能力がどの程度あるかについて、総合的エネ構想の枠内で検討する」と述べた。奥歯に物が挟まったような表現は、原子力をめぐる議論が平行線をたどったことを示唆している。

これまで経済界からは、「環境省と経済省がエネルギー政策を管轄しており、調和が取れていない」という批判が強く出ていた。これに対しメルケル首相は、「今回のサミットによって、我々は一つの鋳型から作ったような、統一性の取れたエネ政策を作るための第一歩を踏み出した。供給の安定性、経済性、環境保護の三つの条件のバランスを取りたい」と述べたが、これは経済界や電力業界の主張に沿う内容である。

一方消費者団体は、「電力料金がこれ以上高くならないように、競争を促進し市場の透明性を高めるべきだ」と指摘した。この国の需要家からは、電力会社が利益を計上しているにもかかわらず、電力料金の引き上げを申請していることについて、批判の声が上がっている。政府と連邦系統庁は、系統運用者がコストを削減し、効率性を高めることを促進するインセンティブを盛り込んだ、新しい法令を、今年中に発表することを明らかにした。

一方電力業界の代表はサミットで、2012年までに新しい発電所と系統整備のために、少なくとも300億ユーロ(約4兆2000億円)の投資を行うことを約束し、発電能力を増やす方針を明らかにした。

 現在ライプチヒの電力取引所で卸売価格が高くなっている背景には、余剰発電能力がなくなり、将来需給が逼迫するという市場関係者の読みがあると推測されている。このため、発電能力増強のニュースは、電力価格に下降圧力を与えるかもしれない。

エネ・サミットは今年秋に2回目の会合を持ち、国際問題、国内問題、研究開発・エネ効率の3つの作業部会に分かれて協議を行い、来年には長期的エネ政策を打ち出すことにしている。電力業界、政府、需要家、環境団体の間に横たわる、エネ・ミックスをめぐる意見の溝を、メルケル首相はサミットを通じて埋めることができるだろうか。

 

電気新聞 2006年4月20日