注目されるドイツ・エネルギーサミット
ドイツでは、四月上旬にメルケル首相が、国内の電力会社や産業界のトップを集めて、長期的なエネルギー・ミックスについて協議する「エネルギー・サミット」を開く予定だ。
この重要な会議を前に、大連立政権の中では脱原子力政策をめぐる、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の間で、激しい応酬が行われている。
* 原子炉の新規建設を要求
論戦に火をつけたのは、CDUの重鎮の一人である、ヘッセン州のロラント・コッホ首相。
彼は、今年二月にベルリンで開かれた原子力業界の会議で、「現在運転中の17基の原子炉の稼動年数を延長するだけではなく、新しい原子炉の建設についても検討するべきだ」と発言して、注目を集めた。彼はエネルギー・サミットで、原子力を含めた総合的なエネ政策について議論し、今年末までに政策要綱を決定することを求めている。
彼の発言が注目された理由は、これまでCDU・CSUだけでなく原子力フォーラムなど、原子力発電所の運営者たちも、「国民感情を考えると、可能なのはせいぜい稼動年数の延長であり、新規建設はとても無理」という考えを持っていたからである。
原子力事業者よりも踏み込んだ発言をしたコッホ氏は、「まず業界が動いてくれなければ、我々政治家も何もできない」と述べて、原子力事業者にはっぱをかけた。
*ビブリス稼動延長申請か
この発言に刺激されたのか、大手電力会社RWEは、「比較的新しい原子炉の稼動年数を移管することによって、ビブリスA原子炉の稼動年数を延長する許可を申請する」という方針を明らかにした。
2001年に当時のシュレーダー政権と、電力業界が調印した脱原子力合意によると、ヘッセン州にあるビブリスAは、2008年に停止される予定だ。
ただしRWEでは、「脱原子力合意によれば、稼動年数を新しい原子炉から古い原子炉に移すことは、原子力による発電総量を増やすことにはならないので、稼動年数の移管は可能だ」という見解を取っている。
1974年に運転を始めたビブリスAは、1976年に稼動したビブリスBとともに、ヘッセン州の電力需要の60%をカバーしており、コッホ首相も稼動期間の延長を望んでいる。
彼は、現在ドイツで高騰している電力価格を引き下げるためにも、原子力発電を維持するべきだと主張している。
* SPDの反発
これに対してSPDの連邦議会議員団のウルリヒ・ケルバー副院内総務は、「ビブリスAは脱原子力合意通りに、2008年に停止させる。稼動年数の移管は許されない」と述べて、CDU・CSUの姿勢に真っ向から反対している。
また原子炉の安全を担当するジグマー・ガブリエル環境大臣も、「コッホ氏は、新しい原子炉をヘッセン州のどこに作るのか、具体的な提案をするべきだ」と挑発的な発言を行い、新規建設を行えば、市民の激しい反発を受けることを暗に示唆している。
脱原子力合意に基づき、大きな発電能力を持つ原子炉が停止されるのは、正にこれから。
大手電力会社4社は、2012年までに、五基の原子炉の合計5058メガワットの発電能力の代替電源を生み出すか、脱原子力合意を変更しなくてはならない。
稼動期間延長には、経済大臣と環境大臣の合意が必要だが、ガブリエル環境大臣は、党内の左派勢力の意向を尊重して、脱原子力政策に固執している。
今年一月にロシアがウクライナに天然ガスの供給を一時停止し、西欧諸国へのガス供給にも影響が出たために、ドイツでは、外国への依存度を減らした、長期的なエネ戦略の策定を求める声が高まり、原子力推進派にとっては追い風となっている。
この国の原子力政策の行方を占うには、4月のエネルギー・サミットでの論議に、注目する必要がありそうだ。
2006年3月1日 電気新聞