エオン・ルールガス買収の波紋

 

今年一月三十日、ドイツの総合エネルギー企業・エオン社は、一年半に及ぶ紆余曲折に満ちた戦いで、勝利の栄冠に向けて大きく近づいた。エオン社がドイツ最大のガス販売企業ルール・ガスを買収する計画をめぐり、国内の電力会社など九社が買収の差し止めを求める訴訟を起こしていたが、これらの会社はエオン社との交渉の結果、訴訟を取り下げたのである。エオン社がルール・ガスの株式の大半を取得する計画が明るみに出たのは、一昨年の夏だった。去年一月には連邦カルテル庁が、「買収はエネルギー市場の過度の集中につながる恐れがある」として、ストップをかけたため、エオン社は連邦経済大臣に許可を申請。経済省は、エオン社がいくつかの電力会社に持っている株式を手放すことなどを条件に買収を許可した。

だが去年夏には、デュッセルドルフの裁判所が、経済省の決定には不備な点があるとして、買収の差し止めを求める仮処分申請を認めたため、買収は再び暗礁に乗り上げていた。連邦カルテル庁は、「エオン社と他企業との間の合意に、独占禁止法に触れる内容がないかどうか、調査する必要がある」と含みを残しているものの、長期化の恐れがささやかれていた法廷闘争が終わったことは、エオン社にとって重要な一歩である。同社が総額百億ユーロ(約一兆二九00億円)の買収費用を投じて、ガス市場に本格的に進出し、世界でもトップクラスのエネルギー企業になることは、ほぼ確実になったと言えるだろう。

ただし、ドイツには「エオン社のルール・ガス買収は、特定の大企業の市場支配を強めるもので、電力・ガス市場自由化の動きに逆行するものだ」という批判もある。マックス・プランク研究所で国際民法を担当し、独占禁止委員会のメンバーでもあるユルゲン・バセドウ氏は、「今回の買収で、エオン社とRWE社によるドイツのエネルギー市場の二極支配体制が、事実上固められた」と指摘し、こうした動きが本当に消費者の利益になるのだろうかという疑問を提示している。

バセドウ氏によると、ドイツでは十年以上前から電力・ガス市場を自由化するための努力が行われているが、消費者を利するような競争は、ガス部門ではほとんど行われておらず、電力部門でもごくわずかである。彼は「送電線の使用を拒否したり、新規参入企業を露骨に差別したりする行為はなくなったが、送電線使用料は相変わらずEUで最も高い。送電・発電部門が法的に統合されているために、企業の固定費用が、送電線使用料に上乗せされている可能性もある」と指摘する。

そして、ドイツの発電所では天然ガスが今後重要性を増すと予想されていることから、エオン社は天然ガスの供給者であるルール・ガスを傘下に収めたことによって、ドイツの発電所への第一次エネルギー供給について、一段と影響力を増すだろうとバセドウ氏は見ている。エオン社のような大企業は、全国の多数の公営電力供給会社に対しても、資本参加によって統制力を強めている。

バセドウ氏は、電力市場の自由化によって一時下がった電力価格が二00一年から再び上昇し始めていることについて、大企業による支配によって競争が阻害されている証拠と指摘する。基盤拡大に成功したエオン社だが、その強大な支配力のゆえに、今後も反カルテル当局の厳しい監視の目にさらされるだろう。



2003年2月19日  電気新聞掲載