大連立に終止符を打ったドイツ国民

 

9月27日の夜、連邦議会選挙の大勢が判明した時、ある老政治家がこう言った。「私は大連立には常に反対だった。今回の選挙は、大連立を終わらせたという意味で良かったと思う」。これは多くの有権者の意見を代表している言葉だ。

本来は与党席と野党席に分かれて、論戦を繰り広げるべき政党が同じ内閣で肩を並べる大連立政権は、民主主義にとって不健全な形態である。市民の政治への関心を失わせる原因にもなる。その意味で11年ぶりにCDUCSU(キリスト教民主・社会同盟) FDP(自由民主党)の連立政権が誕生し、SPD(社会民主党)が野に下ることは、与野党の違いが明確になるという点で、この国にとって喜ばしいことだ。

 それにしても、有権者がSPDに体験させた敗北は、すさまじいものだった。同党の得票率は前回の選挙に比べて11・2ポイントも減り、23%という史上最悪の結果となった。SPDの得票率が1970年代には一時45%を超えていたことを考えると、現在の凋落ぶりがはっきりする。

SPDの議席数は、222から146に落ち込む。前回SPDを選んだが、今回は棄権した有権者の数は164万人、78万人分の票が左派政党リンケ、71万人が緑の党に流れた。ドイツ語にDenkzettelという言葉がある。これは、「あなたの振る舞いには問題があるので、考えを改めなさい」と書いたメモのことだ。有権者は、SPDに大きなDenkzettelを渡したことになる。

有権者、特にリベラルな考えを持つ国民がSPDに厳しい審判を下した最大の理由は、労働者や社会の弱者の側に立つべきSPDがシュレーダー政権以来、社会保障を削減し所得格差を広げる政策を展開してきたことだ。

特に
SPDHartz IVの導入によって失業者への給付金を大幅に減らしたこと、さらに年金の支給開始年齢を65歳から67歳に引き上げたことは、多くの市民を失望させた。首相候補になりながら、党首に就任することは拒んだシュタインマイヤー氏に、人々はリーダーシップの弱さを感じた。今後SPDが左傾化して、一部の勢力がリンケに近づく可能性がある。そうなった時、再び路線闘争が激しくなるだろう。

だがメルケル首相も手放しで喜べない。CDUCSUは得票率を1・4ポイント減らしており、メルケル氏が続投できるのは、大躍進を果たしたFDPと組むからにすぎない。CDUCSUに失望してFDPに流れた票は111万票に達すると推定されている。

選挙の最大の争点の一つは、経済政策だった。金融危機と戦後最悪の不況から、ドイツ経済をいかにして立ち直らせ、天文学的な数字の財政赤字をどのようにして減らすのか。景気を一刻も早く回復させて、失業者の急増をいかにして防ぐのか。難しい問題が山積みになっている。

多くの有権者は経済政策についてはSPDよりも、CDUCSUFDPの保守中道政権の方が信頼できると考えた。だがFDPは、勤労者を解雇から守る法律(Kundigungsschutz)の制限や、公的健康保険を廃止して基本的なカバー以外は民間の健康保険でまかなうという、かなりラディカルな、企業寄りの政策を提案している。保守中道政権がドイツ丸の進路をどのように変えるのか、国民は強い関心を持って見守っている。

筆者ホームページ http://www.tkumagai.de

週刊ニュースダイジェスト 2009年10月9日