アフガン撤退は可能か
2010年は、アフガニスタンでの戦争に参加している国々にとって重要な年になる。今年1月、NATO(北大西洋条約機構)諸国はロンドンで開いた会議で、アフガンに駐留している部隊を3万人増強し、タリバンに対する攻勢を強めるだけでなくアフガンの軍と警察の訓練に力を入れることを決めた。
その目的は、アフガン政府が治安を自分で守れる能力を一日も早く与えて、欧米諸国の早期撤退を可能にすることである。
ドイツも将兵の数を500人増やすが、来年には撤退を始めたい意向だ。欧米諸国は、「戦闘によってタリバンを撃滅しアフガンを平定することは無理なので、面目を保ちながら早くアフガンから引き揚げたい」という本音を持っている。
欧米諸国が支援しているカルザイ大統領は、去年の選挙で票を操作するなどの不正を行っていた。アフガンに欧米型の民主主義を根付かせるのは、極めて難しいのだ。カルザイに代わる人材がいないために、不正選挙を行うような人物を支援せざるを得ない点は、欧米諸国の大きなジレンマだ。
アフガン問題は欧州諸国の内政にも暗い影を落としつつある。オランダでは撤退時期をめぐる議論が原因で、連立政権が崩壊してしまった。リベラル勢力にとっては、アフガンでの戦争を続けることが難しくなりつつあるのだ。ドイツではプロテスタント教会の最高指導者がアフガンからの早期撤退を求めて、注目を集めた。
ある意味で、欧米諸国はアフガンの将来について匙を投げたと言える。だがNATOが撤退した直後に、カルザイ政権が崩壊してタリバンが権力に返り咲いたら、欧米の面目は丸つぶれになる。タリバンはNATOに協力したアフガン人を処刑し、女性には働いたり学校へ行ったりすることを禁止するだろう。多数のアフガン人が国外脱出を図るに違いない。アフガンが、再びアルカイダのようなテロ組織の出撃拠点として使われる恐れもある。
こうした事態を避けるために、NATOは兵力増強によってタリバンをできるだけ弱め、アフガン政府の防衛力を高めようとしているのだ。
だが本当にNATOが望むような形で撤退が実現するかどうかは、未知数だ。今年2月にミュンヘンの安全保障会議で、米国のマケイン議員は「今年はアフガンで最も犠牲者が多くなる。我々にとって、一番厳しい年になるだろう」という悲観的な見方を示した。カルザイは「NATOは少なくとも10年はアフガンに残るべきだ」と語っている。
NATOは2月15日にアフガン軍と合同で、過去8年間で最大規模の攻勢を開始したが、今のところ大きな戦果は上がっていない。むしろNATOの誤爆によって、約50人の市民が犠牲になっている。
ドイツ連邦軍が駐留しているアフガン北東部に、米軍が大量の兵士を増員することを決めたことは、この地域の治安も急速に悪化していることを示している。ドイツ軍の兵士たちは、これまで主に基地の中などでアフガン軍や警察の訓練を行ってきた。今後は基地の外に出て地元の兵士を訓練したり、治安を維持するためのパトロールを増やしたりすることが求められる。つまりドイツ将兵にとってのリスクは、これまで以上に増えるのだ。
アフガンは、イランの核兵器開発と並び、欧米諸国の国際安全保障をめぐる最大の難題となりつつある。
週刊ドイツ・ニュースダイジェスト 2010年3月5日