ドイツの労働時間は延長されるか?
今年の夏、ドイツでは労働時間をめぐる議論が盛んに行われた。
ダイムラー・クライスラー社が労働コストを下げるために、エンジニアの週の所定労働時間を40時間にすることを決めたほか、シーメンス社の一部の工場でも、労働者側が40時間労働を受け入れた。
いずれのケースも、経営者側が「いやなら、工場を東ヨーロッパに移すよ」という切り札をちらつかせたので、組合側も首を縦に振らざるを得なかったというのが、実情だろう。
労働基準法はあっても、課長や同僚が遅くまで残っていれば、サービス残業によって長時間働くことは当たり前の日本社会から見れば、「週の所定労働時間を40時間にするか否か」という、ドイツでの議論には唖然とする人が多いのではないだろうか。
ただし、ドイツの労働時間を聞けば、もっとびっくりする人がいるだろう。
旧西ドイツの工場労働者の所定労働時間は現在35・7時間で、先進工業国の中では最も短い。
これに加えて、6週間の有給休暇が保証されている。1990年にドイツへ来た当初私は、「よくこれで経済が機能しているな」と不思議に思ったが、ドイツ人に言わせると「我々は他の国よりも仕事のやり方が効率的だから、労働時間は短くて済むのだ」そうである。
ドイツの国民一人あたりの国内総生産(GDP)は、日本よりも30%少ない。
人々の身なりや食生活は質素だし、日本のようにブランド商品を持って歩いている人も目立たない。だが彼らは、一人あたりのGDPが日本の70%しかなくても、会社に束縛されずに、家族と過ごしたり、自分の好きなことをしたりする自由時間を確保することの方が重要と考えているのである。
若い人と話をしても、給料が上がらなくても自由時間の方を大事にする人が多い。ただし、ドイツ経済の行方に陰りが見え始めた今、これまで通りにやっているだけでは不十分であることも確かだ。経済成長率はほぼ横ばいなのに、年金や介護費用、失業保険金などの社会保障支出は、はるかに高い速度で伸びている。
稼ぐ以上の速さで遣っていたら、制度が遅かれ早かれ破綻することは目に見えている。東欧やアジアの国々が工業水準を高めることによって、ドイツの工業製品に価格面で挑戦する企業は今後ますます増えていくだろう。
質が良いから割高でもかまわないという理屈は、グローバル化が進んだ国際市場ではいつまでも通用しない。ある銀行の試算によると、週40時間を導入するとドイツの労働付随費用は、今よりも7%減少する。今後、経営側は労働時間の延長と休暇の制限へ向けて、圧力を高めていくだろう。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2,004年9月17日