二期目のブッシュ政権と欧州
4000万ドル(約44億円)の費用をかけた大統領就任式を経て、ブッシュ氏が二期目の政権を発足させたが、ヨーロッパ人が彼を見つめる視線は冷ややかである。
米国はイラク戦争の大義名分だった大量破壊兵器(WMD)が見つからないため、去年末で捜索を正式に打ち切った。ブッシュ氏やライス国務長官は、戦争の理由をWMDの発見ではなく、「市民を圧制から解放すること」に移し変えはじめたが、今にもイラクがテロリストにWMDを渡しかねないと強調していた、開戦前の米国当局者たちの発言を考えると、甚だしい議論のすりかえである。
今後米国は何年間イラクに駐留すればよいのか、まだ誰にも見当がつかない。駐留を続ければ、死傷者が続出することは避けられないし、撤退すれば国家は崩壊し、かつてのアフガニスタンのような内乱状態に陥る可能性がある。イラクが安定した民主社会を打ち立てるまでは、アメリカ人たちはイラクを去るわけにはいかないだろう。イラク戦争が理由となって、欧州とアメリカの関係は冷却しているが、二期目のブッシュ政権はヨーロッパ人たちの心を解きほぐすことができるだろうか。
イランの核施設問題をめぐる交渉で、平和解決を目標とするヨーロッパ諸国が、なかなかイランが核開発を完全にあきらめるよう説得できないことは、不吉な兆しである。イランがいつまでも核カードをちらつかせる限り、米国の軍事攻撃というオプションが現実性を帯びてきてしまう。
9月11日の洗礼を受けた米国が最も恐れていることは、テロリストがWMDを使った攻撃を米国内で実行することである。米国は、ある国がテロリストにWMDを渡す可能性さえあれば、攻撃に踏み切る恐れがある。その際にWMDが本当に見つかるかどうかは副次的な問題であり、「きのこ雲が上がってからでは遅すぎる」というモットーの下に、WMDが米国に対して使われる可能性を極力ゼロに近づけることに、全力を注ぐ。
たとえば、サダム・フセインの排除によって、イラクがWMDをテロリストに渡す可能性は大幅に減ったのだから、ブッシュ政権にとって、イラク戦争の犠牲は払う意味があるというわけだ。もちろん、ドイツ人やフランス人には受け入れられない理屈である。この認識のギャップは、9月11日事件を経験していないヨーロッパ諸国には、絶対に埋められないものなのかもしれない。
「エッフェル塔やライヒスタークに旅客機でも突っ込まない限り、我々の不安と怒りは、ヨーロッパ人にわかってもらえないだろう」と、私に悲しそうに語った米国・国務省高官の言葉が思い出される。
2005年1月30日 週刊 ドイツニュースダイジェスト