ブッシュ再選後の世界
ブッシュ大統領が、ケリー候補に大差をつけて再選を果たしたことは、米国人のテロに対する不安がいかに強く、この超大国で右傾化が急速に進んでいることを表わしている。
米国議会での上院・下院で共和党が勢力を増やしたことも、テロの影に覆われた米国で、多くの人々がリベラルな民主党よりも、保守勢力を信頼できると判断したことを示している。
イラクでは米軍の戦死者が1000人を超え、日本人を含む外国人が次々に抵抗勢力に拉致されて、ビデオカメラの前で無残に処刑されている。ブッシュ氏が開戦の最大の理由としていた大量破壊兵器も全く見つからず、戦争の大義名分は崩れている。
このように客観的には、ブッシュ氏にとって不利な材料が多かったにも関わらず、米国の有権者が逆に大統領への支持を強めた裏には、9月11日事件以降の世界について、米国の中と外との間で、認識のギャップが拡大しているという事実がある。
私は去年イラク戦争に関する取材のために久しぶりに米国を訪れたが、愛国心の異常な高まりと、人々の大規模テロへの不安を強く感じた。政治と経済の中心が、攻撃を受けるという、建国以来もっとも深刻な事態が米国人に与えた衝撃は、欧州ではあまり理解されていない。
一方米国人は、国連安保理の直接の決議なしで行われたイラク戦争が、欧州と中東で米国への不信感を強め、逆にテロリスト予備軍を増やしていることについて、十分に意識していない。この米国内外の認識のギャップは、世界にとって危険な事態である。
ブッシュ氏は、今回の選挙結果で「みそぎ」を受けたと感じて自信を深め、より単独主義的な傾向を強めていくに違いない。
ブッシュ再選を最も喜んだのは、他ならぬビン・ラディンであろう。彼が望んでいるのは、欧米とイスラム世界が憎みあい、全面的に衝突することである。そのためには、国連憲章に違反しても、アラブの主権国家への戦争に踏み切り、アラブ世界の穏健勢力をも反米主義に駆り立てる、ブッシュ氏のような人物が米国の指導者であることが、不可欠なのである。
ビン・ラディンが大統領選挙の直前に、米国での新たな大規模テロを示唆するビデオを公表したことは、米国民の不安を煽り、ブッシュには追い風となった。
ブッシュ再選後も残念ながら、テロは終わらず、世界は安全な場所にはならない。
次の焦点は、イラクとは異なり、実際に核武装への道を歩みつつあるイランだろう。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年11月13日