CIAの暗躍に高まる不信感

ドイツと米国の間に、再び緊張した雰囲気が漂っている。

12月6日に、初めてメルケル首相と会談した米国のライス国務長官は、対テロ戦争における
CIAの容疑者拉致問題について、さっそく苦言を呈されたのである。

直接のきっかけは、2003年12月に、レバノン系ドイツ人のカリド・アル・マスリ氏がセルビアとマケドニアの国境で逮捕された後、睡眠薬を注射されてアフガニスタンに連行され、5ヶ月間にわたって米国の諜報機関員に尋問された事件である。

マスリ氏は同姓同名のアル・カイダのメンバーと間違えられて、
CIAに拘束された疑いが強まっている。

アル・マスリ氏は、被疑者不肖のまま、犯人をミュンヘン地方検察庁に告発した他、米国の人権擁護団体を通じて、米国の裁判所でもCIAを提訴している。

メルケル首相は会談後、「米国がこの事件について、過ちを犯したことを認めた」と明らかにするとともに、対テロ戦争でも拷問の禁止など国際法を守ることの重要性を強調した。

これに対しライス長官は、全ての米国政府職員に対して、拷問の禁止を遵守するよう改めて要求した。欧州側の怒りを強く感じたからだろう。

米国きっての特ダネ記者であるセイモア・ハーシュ氏は、著書「チェイン・オブ・コマンド」の中で、ブッシュ大統領は、CIAと国防総省に対して、アル・カイダに関する重要な情報を持つ人物を、世界の至る所で拉致して尋問することを許可したと述べている。

SAP(スペシャル・アクセス・プログラム=特殊接触計画)と呼ばれるこの計画によれば、CIAや特殊部隊の要員たちは、ジュネーブ協定などの国際法に縛られることなく、容疑者を誘拐することを許されている。

アル・マスリ氏も、人違いでこの
SAP計画の犠牲になった可能性が強い。

また、米国政府は自分たちで拷問を加えずに、中東やアジアの諜報機関にアル・カイダの関係者の身柄を預けて拷問を行わせ、情報を引き出そうとしているとも伝えられる。

ドイツ政府の発表によると、民間機を装った
CIA所属の航空機が、400回もドイツの空港を利用しており、その中にはCIAの秘密収容所に容疑者を輸送する飛行機もあったものと見られている。

振り子は途中で止まらずに、反対側に大きく振れる。

90年代にアル・カイダの撲滅に十分な力を注がなかった
CIAは、2001年の同時多発テロを防ぐことに失敗し、強い批判を浴びた。

諜報機関は、今や大規模テロを防ぐという名目で、世界中で強引な情報収集を行っている。

ジュネーブ協定を無視してよいなどと、米国政府が勝手に決められるのか。

各国の主権をふみにじるような、
CIAの暗躍は、ドイツだけでなく他の欧州諸国でも、米国に対する不信感を増幅するだろう。

 

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年12月16日