欧州は中国に武器を輸出すべきか?
ブッシュ大統領が、2月に欧州を訪問した際に、マスコミの前ではほとんど触れなかった問題が、ドイツやフランスの中国への武器輸出計画をめぐる、米国の反対姿勢である。
EU(欧州連合)は、天安門事件に抗議して1989年6月から、中国への武器輸出を禁止しているが、今年夏には禁輸措置を解除する予定である。
中国はフランスのミラージュ戦闘機や、ドイツのレオパルト2型戦車に興味を持っており、欧州は、毎年150億ドル(約1兆6500億円)相当の武器を中国に売り込めると予想している。
これに対し米国は、中国が台湾に侵攻した場合は、軍事介入する方針であることから、欧州が中国に武器を売ることに対しては強い警戒感を抱いている。
中国はまだ民主主義国家ではない。
そして台湾が独立を宣言した場合には、侵攻すると威している。
紛争を平和的に解決せず、サーベルをがちゃがちゃ鳴らす国に対して、武器を販売するべきだろうか。
イラク戦争に反対しながら、巨大市場の魅力に目がくらんだ欧州の浅はかさを、強く感じる。
私は1990年のヒューストン・サミットで、フランスのミッテラン大統領の記者会見に出た。
この首脳会議では、日本だけが中国に輸出融資を行うことを提案したが、他の国々は天安門事件を理由に、融資に反対していた。
ミッテラン氏は言った。「テレビカメラの前で自国民を虐殺するような野蛮な国に、輸出融資を行うべきではない」。
なるほど、自由・博愛・平等を旗印にした「文明国」の大統領らしい発言である。
だがそれから15年の歳月が流れて、フランスを含む欧州諸国の首脳は、当時とは態度をがらりと変えて、財界人たちの先頭に立ち、毎年のように北京詣でを繰り返している。
会談では、チベット問題など、人権問題はほとんど取り上げられなくなった。
ヨーロッパ諸国で経済成長率が鈍化し、失業問題が深刻になっている中、青臭い人権問題で、中国という大切なお客様のご機嫌を損ねてはいけないということなのだろう。
ともかく経済優先の時代である。
国内の失業者数を減らすには、武器だって売らねばならない。
だが「人間の尊厳は不可侵である」という言葉を冒頭に掲げた欧州憲法の精神に照らして、本当に中国への武器輸出は許可されるべきなのだろうか。
多様性を重視する欧州にしては、中国への武器輸出に関する突出ぶりはちょっと異様である。
それとも、中国に武器を売ってもそれが使われる相手は欧州人ではなく、アジア人であるということで、割り切っているのだろうか。
もしそうだとすれば、自由・博愛・平等の精神はどこへ行ったのであるか。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年3月11日