チェコ・EU加盟の光と影

9年ぶりに訪れたプラハでは、至る所にEUの青い旗がほこらしげに掲げられているのが目についた。この国が初めて参加する欧州議会選挙のポスターが街角に貼られているのを見て、「チェコがついにEUの一員になったのだ」という実感を持った。

プラハでは、以前にもまして欧米企業の広告や社名の看板が目立つ。一泊250ユーロの高級ホテルも珍しくなくなり、西欧からのビジネスマンで溢れている。郊外には
IKEAなどの巨大な店舗やショッピングセンターが立ち並び、西欧と雰囲気が似てきた。

チェコは、外国企業による投資が中欧で最も積極的に行われている国の一つで、
EUによると外国直接投資(FDI)の額は、国内総生産の10%に達している。特にトヨタとプジョー・シトロエンがボヘミア地方のコリンに、15億ユーロ(1950億円)を投じて小型乗用車の組立工場を新設するプロジェクトなど、大型投資が引き続き行われている。チェコのEU加盟によって法体系などビジネスを行う環境が大幅に整ったことで、欧米企業、特に税金と社会保険料の高さに悩むドイツ企業が、今後さらに工場や研究機関をチェコに移すことは間違いない。

プラハを除けば、物価や人件費がドイツに比べると今でもはるかに低いことは、経営者にとって大きな魅力だ。プラハの東100キロのパドビーチェで、食堂でスープを注文したら1ユーロ(130円)、ある商店で陳列されていた婦人用スラックスは、3ユーロ(390円)だった。

だがチェコ市民が
EU加盟を見る目は、意外とさめている。その背景には、国営企業の閉鎖や、企業での大幅なリストラのために、失業率が大幅に上昇し、人々の間で不安が高まっていることがある。チェコ労働省によると、失業率は1993年には3・5%だったが、現在では10・2%とドイツ並みになった。

特に重工業関連企業が多い地域の中には、就業可能者の5人に1人が路頭に迷っている都市もある。失業率に大きな地域格差があるのも、ドイツそっくりだ。失業率が4・4%と最も低いプラハですら、9年前に比べると物乞いをする浮浪者の姿が増えた。

「もしもユーロが導入されたら、物価が上昇して生活が苦しくなるのではないか」と懸念する市民も少なくない。チェコ政府にとっては、急速な西欧への接近の「副作用」を、国民にいかに納得させるかが、大きな課題となるかもしれない。


週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年6月5日