独仏はなぜイラク派兵にノーと言ったか

 

 6月6日のノルマンディー上陸作戦60年記念式典以降、ブッシュ大統領としては、イラク戦争をめぐって外交的な勝利を得た気分であろう。

今月30日にイラクの暫定政府に主権を委譲した後の、法的な枠組みを整えることができたからである。特に国連安保理が米英の決議案を承認し、多国籍軍に2006年1月までの駐留を認めたことは、ブッシュ政権が必要としていた国際的な権威づけとして、重要である。

しかし、イラクで抵抗勢力やテロ組織が衰えを見せていない中、米国の軍事支配が続くことに変わりはない。例えばイラクの暫定政府は、多国籍軍の軍事活動を制約する権利を与えられなかった。フランスが拒否権を行使しなかったのは、イラクの混沌が深まった場合、アフガニスタンのようなテロ活動の温床になることを懸念したからだろう。しかし、決議案に賛成したからといって、国連憲章を無視して米国がイラクに侵攻したことについて、批判的な姿勢を崩したわけではない。その証拠に、米国で開催された
G8サミットで、独仏政府はともに、多国籍軍に戦闘部隊を参加させない方針を明らかにした。

ブッシュ政権のイラク侵攻に反対する、両国の原則の現れである。イラクで大量破壊兵器が見つからず、サダムフセインとアル・カイダの関係も立証されていないこと、さらにイラク人捕虜への虐待によって、戦争の大義名分や米国の信用性が大きく揺れる中、両国政府は戦争反対の姿勢を貫いたことの正しさを、確信しているものと見られる。

一方小泉首相は、多国籍軍に参加する方針を明らかにした。自衛隊は多国籍軍を率いる米軍の指揮下に入るが、イラクで将来、武装蜂起が発生し、多国籍軍が反撃する場合、自衛隊の「人道的支援以外の任務は行わない」という原則は崩れる。また多国籍軍は「イラクの治安を維持し、テロの脅威から国際社会を守る」という任務を負うわけだが、これは日本政府が行使しないとしてきた集団自衛権にあたるのではないか。

私は日本が米国の対テロ戦争を支援することには反対しないが、米国の事情に引きずられるのではなく、憲法改正などの法的な手続きや、集団自衛権に関する議論を行ってから、派兵をするべきだった。さもなければ、日本は法律を重視しない国というイメージが外国の間で定着するだろう。

議論の欠如は、こうした問題点を衝かない、マスコミの責任でもある。


週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年6月18日