深まる危機・満身創痍のEU
2005年は、これまでスムーズに統合と拡大を続けてきた欧州連合(EU)が、深刻な危機に陥った年として、歴史に残るだろう。
6月17日にEU加盟国は、ブリュッセルで開いた首脳会議で、EUの負担金制度の改革について合意に達することができず、会議は物別れに終わったのだ。
サミットの決裂は、フランスとオランダの市民が、国民投票によって欧州憲法の批准を拒否したことに次いで、EUにとって大きな打撃である。
英国は1984年から負担金の軽減措置を受けており、その額がここ数年間で46億ユーロ(約6440億円)に達していることについて、ドイツ、フランス、オランダなどが強い不満を表明していた。
首脳会議では、特にオランダと英国が真っ向から衝突して、譲歩しなかったことが、会議の決裂につながった。
各国とも不景気のために財政赤字が拡大する中、負担の公平化を求めていることから、英国とオランダの姿勢が硬化したのだろう。
これまでも負担金をめぐる議論では、国家エゴがさらけ出されることが多かったが、憲法否決から日が浅いだけに、EU内の不協和音が強調される形になった。
各国首脳は、欧州憲法についても、フランスとオランダの否決を受けて、当初来年秋に予定されていた批准完了を1年近く延期することを決定したが、やむを得ないことだろう。
両国での投票結果は、各国政府が国民に対して十分な啓蒙活動を行わないまま、統合や拡大のプロセスを加速したことについて、欧州のエリート層に、反省を迫る警鐘だ。
いわば「置いてきぼりを食ったEU市民の反乱」である。
各国首脳にとって、欧州憲法についての国民投票は、自分の政治生命を縮めかねない、危険な賭けとなった。
シラク首相が強がりを言っても、彼の影響力が、今回の否決によって、著しく下がったことは否めない。
英国で国民投票を行えば、市民が批准を拒否することは、火を見るよりも明らかなので、ブレア首相も投票を大幅に延期するだろう。
今回の危機は、トルコの加盟交渉の行方にも大きな影響を及ぼす。
また、各国首脳は、EUの統合深化と拡大が、市民の間に生んでいる不安を、和らげる道を探らなくてはならない。
一部の市民は、EU拡大や統合深化を、経済のグローバル化と同列視している。
各国首脳は、市民の意向にこれまで以上に配慮した、欧州統合と拡大の方法について、試行錯誤を迫られているのだ。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年6月26日