EUはトルコ問題をどうするのか
トルコが死刑を廃止し、国内の改革を急速に進めたとしても、実際にEU(欧州連合)に加盟できるのは、まだ何十年も先のことだろう。それでも、EU諸国はこの問題を先延ばしせずに、真剣に取り組む必要がある。その理由は、トルコ加盟がEUを決定的に変質させる可能性を秘めているからである。
現在西ヨーロッパのイスラム教徒は、人口の3%から5%の間と推定されているが、トルコが加盟した場合、EUの人口にイスラム教徒が占める比率は、約16%と一挙に高くなる。
西欧の共同体として産声を上げたEUが、これほど異なる文化や価値観を持つ国を受け入れたことは、これまでに一度もない。西欧のキリスト教徒の間には、イスラム教徒が国民の大多数を占める国を加えることで、共通の価値観が失われることを懸念する声が出ている。
さらに、EUはトルコを加えることによって、シリア、イラン、イラクといった中東の国々と初めて接することになる。フランスには、政情が不安定な地域から、テロリストがEUに侵入しやすくなることについて、危惧する専門家もいる。
さらに、トルコの国民一人あたりの国内総生産(GDP)は、2002年の時点で2490ドル。英国やフランスの10分の1にすぎない。EUは道路や鉄道などのインフラ整備に多額の援助を迫られるほか、トルコは農業補助金も要求するに違いない。
EUが負わなければならない経済的な負担は、チェコやポーランドなど中欧諸国の加盟による負担とは比べ物にならないほど、重くなるだろう。私は、これらの困難を承知の上で、EUは、トルコが全ての基準を満たした場合、正式加盟を認めるべきだと考えている。
欧州憲法によると、EUに加盟する国は、思想や宗教の自由、民主主義、法の前の平等、人権の尊重、社会の少数派の保護、差別の禁止などの価値観をわかちあうことを求められる。トルコはイスラム教徒が多い国としては、最も世俗化が進み、ヨーロッパに近い価値観を持ちつつある国だ。
そうした国が、イスラムの精神を尊重しながら、社会の民主化などの目標を実現できれば、他のイスラム諸国に対しても、「欧米と対立することだけが、生きる道ではない」という一つのモデルケースを示すことになる。
実際、ドイツやフランスには、社会のルールを守り、地域に溶け込みながら生活しているイスラム教徒も大勢いるのだ。その意味でトルコのEU加盟は、「文明の衝突」を緩和する上でも、重要な一歩になるのではないだろうか。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年12月24日