ユーロを救え!
「全てはユーロの安定性を守るために必要なことです」。5月4日にメルケル首相はこう語り、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)による総額1100億ユーロ(約13兆2000億円)という天文学的な融資の必要性について、国民の理解を求めた。
ドイツの負担額は224億ユーロ(約2兆6880億円)。EU随一の経済力を反映し、1国としては最も多い額だ。これは資本注入ではなく融資なので、利子つきで返って来ることが前提だ。
しかし経済力が弱まっているギリシャが、本当にこれだけの金を返済できるのか、不安がつきまとう。
ドイツでは社会保障が削られる方向にあり、国も地方自治体も緊縮財政を迫られているのに、分不相応な借金をしまくっていたギリシャの失策のつけを、ドイツなど他国の納税者が払わされる。国民の不満はつのっている。
しかし欧州諸国にとっては、問題児ギリシャを救済する以外に道はなかった。今回の債務危機は、1999年に創設された欧州通貨同盟が経験する最大の激震である。
もしもギリシャ政府が債務不履行(借金を返せなくなる状態)に陥っていたら、ユーロという通貨に対する信用性が大きく揺らぐばかりではなく、ギリシャにお金を貸している民間銀行にも大きな悪影響が及ぶ。
ただし、この救済で全ての問題が解決したわけではない。今回の危機は、欧州通貨同盟の法的な基盤であるマーストリヒト条約、そしてユーロ圏加盟国を律するための規則である安定協定が不備であることを浮き彫りにした。
欧州委員会は、本来ユーロ圏に入る資格がなかったギリシャが、財政赤字や債務に関するデータを偽って2001年に通貨同盟に入ったことを見抜けなかった。
2004年にはドイツやフランスの債務比率が高まったので、安定協定の制裁措置が緩和された。つまりユーロ加盟国は、財政赤字や債務に関する基準に違反しても厳しい罰を受けないので、野放図な財政運営を続けることができたのだ。
さらにギリシャ政府が去年の暮れまで、実は13・6%である財政赤字比率を「3・7%」と大幅に低く報告していたのに、欧州委員会はこの嘘を見抜くことができなかった。
欧州中央銀行の関係者は「ユーロ圏加盟国が、意図的に偽りのデータを報告するという事態は想定していなかった」と言うが、あまりにも世界の現実に疎い発言である。つまり欧州委員会は国家の「モラル・ハザード」の可能性を見落としていたのだ。これらの事実は、ユーロ安定協定が抜け穴だらけで、機能不全を起こしていたことを示している。
ユーロ圏加盟国は、マーストリヒト条約と安定協定を大幅に改正して罰則を強化するだけではなく、各国政府が報告するデータのダブルチェック態勢を整える必要がある。
さらに、将来ギリシャで国民の不満が強まって政権交代が起き、新しい政府が財政赤字と債務を減らす努力をやめ、EUとIMFからの借金の返済を拒む事態も考えられる。EUは、その時にどう対応するのかについても、準備しておかなくてはならない。
特に危険なのは、他の過重債務国の反応だ。ギリシャのように公然と規則に違反した国でも、結局EUとIMFに救済されたのを見て、イタリアやスペイン、ポルトガル、アイルランドなどが財政赤字と債務の削減努力を怠る可能性もある。
これらの国々まで救済することになったら各国の納税者は反旗を翻し、ユーロ圏全体が重大な危機に陥るだろう。
EUが「債務国の救済機関」に変質することを、どのように防ぐか。ドイツを含めた加盟国首脳は、大変難しい宿題を与えられたのだ。
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追伸
その後EUの安定化プログラムの総額は7500億ユーロ、ドイツの負担額は、1230億ユーロに増えました。
週刊ドイツ・ニュースダイジェスト 2010年5月16日号 再掲