ドイツのガス供給は大丈夫か?

 

EU(欧州連合)は、5億人近い人口を持つ世界最大の経済圏だが、「エネルギーを安定的に供給できない」というアキレス腱を持っていることが明らかになった。

そのきっかけはロシアとウクライナの天然ガスをめぐる紛争である。両国の間では2006年以来、毎年のようにガスの代金などをめぐるトラブルが起きているが、今年は一段とエスカレートした。初めの内ロシアは「ウクライナが天然ガスの代金を滞納している」と非難。ウクライナが代金を振り込むと、今度は「ウクライナが西欧向けのガスを盗んでいる」と難癖をつけた。

両国の交渉は決裂し、元日からロシアはウクライナ経由の天然ガスの供給を停止させた。このパイプラインは、ドイツ向けのガスの80%が通過する大動脈である。

ドイツで消費されるガスの内、ロシアが占める比率は37%。だがドイツへのガスの5分の1を輸送している、ベラルーシ経由のパイプラインは閉鎖されなかった。またドイツはノルウエーからもガスの26%を輸入している。このためドイツではガスの供給が途絶えることはなかった。さらにガス会社は外からの供給が完全に断たれても、70日間は持ちこたえられるだけの備蓄を持っている。

今回のガス紛争で最も深刻な影響を受けたのは、ブルガリア、スロバキア、ルーマニアなど、ロシアのガスに100%依存している国だ。よりによって寒気団の影響で気温がマイナス10度前後まで下がったこの季節に、一部の家庭で暖房がストップしたり、工場が操業を停止したりするなど経済に大きな悪影響が出た。

電力を節約するために、街灯の一部を消した国もある。ガスの備蓄が少ないスロバキアは、去年暮れに
EUの要請で停止した旧式の原子力発電所の運転を再開することを検討するほど、追いつめられた。

今回のガス紛争は、単なる貿易上のトラブルではない。背景にはロシアとウクライナの間の政治的な関係が悪化しているという事実がある。去年のグルジア戦争は、ロシアが自国の権益を守るためには武力行使を含む強硬手段を取ることをはっきり示した。今後もガスをめぐるトラブルは再発するだろう。

いや将来ロシアがウクライナそして
EUとの政治的な紛争を解決するために、パイプラインを長期間にわたって遮断することもありうる。

その意味で、ガス紛争が3年前から断続的に起きているのに、ガスの安定供給を確保するための本格的な対策を取ってこなかったドイツ政府、そして欧州委員会の責任は重大である。EU市民は、ロシアの人質になっているようなものだ。

議会制民主国家ではないロシアに天然ガスの4割を依存することは危険であり、輸入先を多角化することが緊急の課題だ。ドイツ政府は、
ロシアが天然ガスの供給を停止する事態に備えて、去年夏に戦略備蓄を構築することを決定しているが、正しい措置だ。

ドイツは原油の戦略備蓄は行っているが、政府による天然ガスの備蓄制度はなかった。

寒冷地帯であるヨーロッパで、ガスは生活に欠かせない資源だ。ドイツを始めEUの政治家たちには、エネルギー安全保障の重要さをもっと強く認識してもらいたい。

筆者ホームページ http://www.tkumagai.de 2009年1月23日