ハマスの勝利とヨーロッパの苦悩

今年1月にパレスチナ評議会の選挙で、テロ組織ハマスが圧勝したことは、イスラエルだけでなくヨーロッパ諸国にも強い衝撃を与えた。

ハマスは組閣を行い、政府入りすることが確実になっている。


ハマスは、イスラム教の原理主義に基づく組織で、その綱領の中でイスラエルの殲滅を目標の一つとしている。

2000年から吹き荒れた「第2インティファーダ」では、イスラエルに自爆テロリストを送り込み、多数の市民を殺傷した。

ドイツのメルケル首相は、ハマスがイスラエルの生存権を認め、武装闘争をやめない限り、援助を行わないという姿勢を明らかにしている。

ヨーロッパ諸国にとってのジレンマは、テロ組織が政府に入ったことを理由に、パレスチナへの資金援助などを停止した場合、苦しむのは民衆だということである。

さらに、パレスチナ自治政府が、資金を求めてイランやシリアなど、国際社会で孤立しつつある国々と、急速に関係を深める恐れもある。

さらに、ヨーロッパ諸国の頭を悩ませているのは、ハマスが政府入りするのは、クーデターによるものではなく、選挙という合法的な手段によるということだ。

つまり、アラファトらが率いるファタハの腐敗ぶりに憤慨した市民たちが、「民意」によって、合法的に過激組織を政府の座につけるのだ。

その意味で欧米にとっては、パレスチナ経済援助の停止は、民意を否定することにもなりかねない。

これは、欧米が支持している中東諸国の民主化のジレンマである。

エジプトでの総選挙でも、モスレム同胞団が得票率を伸ばした。モスレム同胞団はハマスの母体となった過激組織であり、9月11日事件の実行犯モハメド・アタやアル・カイダとも間接的につながりがあると指摘されている。

イランでも、有権者の投票によって、過激な人物が大統領に選ばれた。

「民意」が過激な組織や人物を権力につけた時には、どう対応するべきなのか。


これまでドイツ政府は、イスラエルとパレスチナ自治政府と等距離外交を行うことによって、両者から信頼を得ることに成功してきた。

特にフィッシャー前外相は、仲介役として重要な役割を果たしてきた。この良好な関係は、ファタハの権力喪失、ハマスの台頭によって終わってしまう可能性が強い。


一方イスラエルでも、カリスマ的指導者シャロンが昏睡状態のままであり、3月末の選挙を前に不安定な状態にある。

隣に「ハマスタン」が誕生する危険が高まりつつある今、イスラエルは壁の建設に拍車をかけ、パレスチナ自治政府との接触を断つに違いない。

欧米とイスラエルを挑発する発言を繰り返し、核開発の道を突っ走るイランの動向も、不気味だ。

一時はオスロ合意によって、地平線の彼方に見え始めていた中東和平の曙光は、再び緊張と反目の暗雲の中に、消えようとしている。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年3月3日