イラク戦争の大義は崩れた
2年前シュレーダー首相は、ブッシュ政権のイラク攻撃計画に反対する姿勢を打ち出した。ドイツが戦後初めて、安全保障の重要な問題をめぐって米国に「造反」した瞬間である。いまシュレーダー氏は、イラク戦争に「ノー」と言ってよかったと痛感しているに違いない。
イラクでは連日のように自爆テロが発生し、民間人を中心に多数の犠牲者が出ている。米軍側の戦死者も、1000人を超えた。
生物兵器、核兵器などの大量破壊兵器(WMD)を捜していた米国の調査団ISGは、最近公表した報告書の中で、「米軍が侵攻した時点で、イラクはWMDを持っていなかった」と結論づけた。これで戦争の最も重要な大義名分が、完全に崩れたことになる。
米国の高官らも、戦争前に諜報機関が集めていたWMDに関する情報が、間違いだったことを認めている。パウエル国務長官は、イラク侵攻前に国連の安全保障理事会で、生物兵器の移動式研究室のイラストや、「WMDの隠蔽に関するイラク人の会話」と称する電話の録音テープなどを使って、長々とプレゼンテーションを行い、「イラクがWMDを保有していることは、厳然たる事実だ」と断言した。彼は全世界に対して誤った情報を提供し、赤恥をかいたことになる。
今月5日には、対イラク強硬派のラムズフェルト国防長官でさえ、「イラクとアル・カイダの間には関連が見つからず、WMDに関する情報も間違っていた」と発言し、ブッシュ政権が誤った情報に基づいて戦争に踏み切ったことを認めている。
ドイツのBND(連邦情報局)は、「米国がイラクの治安回復に失敗した場合、同国がイスラム・テロ組織の温床になる恐れがある」と指摘する。米国に追随する「有志連合」の間にも、動揺が見える。
3000人の兵士をイラクに派遣しているイタリアの国防大臣が、「米国とその同盟国は、イラクから撤退した方が同国の民主主義を強化できる」と発言した。またポーランドの国防大臣も、来年末までに自国の部隊をイラクから撤退させることを提案している。
米国は、来年1月にイラクで初めての議会選挙が行われるまでは、兵力削減を行うことはできないが、それ以降はイラク新政府に治安回復任務を任せて、兵力を減らしていくだろう。
ところで米国にサダム・フセインを「退治」してもらって、一番得をした国は、イスラエルである。不倶戴天の敵が1人減ったのだから。こんな所にも、米国とイスラエルを見えない所で固く結ぶ、深層底流のようなものを感じる。
熊谷 徹
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年10月23日