ドイツはなぜイランを糾弾したのか
ドイツ政府は、戦後60年間にわたり、ナチスの犯罪を徹底的に糾弾してきた。
この国では、「ユダヤ人に対する大虐殺はなかった」とか、「ナチスがユダヤ人を600万人も殺したというのは嘘だ」という主張を公表したり、流布したりすると、国民扇動罪で刑事罰の対象になる。
日本に住んでいる人にはなかなか理解できないと思うが、ドイツ政府にとってナチスは絶対の悪であり、ナチスについては思想の自由は存在しない。
「ナチスは失業問題を解決したり、高速道路を整備したりするなど、良いこともした」という主張もドイツでは、ナチスの崇拝者と思われる危険があり、タブーである。
日本の大手出版社が「アウシュビッツの嘘」に関する記事を堂々と雑誌に公表して、世界中から批判を浴び、雑誌の廃刊に追い込まれたことを覚えておられる読者もいるだろう。
こうした中、イランで昨年大統領に選ばれたアマディネシャド氏が、世界の「慣習」に真っ向から挑戦する発言を繰り返して、ドイツやイスラエルを挑発している。
彼は去年12月「イスラエルを地図から抹殺するべきだ」とか、「ドイツやオーストリアは、それほどイスラエルのことが心配ならば、イスラエルをヨーロッパへ移せばよい」と発言。
さらに、「ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)は、ユダヤ人が作り出したおとぎ話」とまで述べた。
これは、ドイツや米国のネオナチが言っていることと同じである。イスラエルだけでなく、ドイツや欧州連合は、アマディネシャド大統領の発言を強く非難している。
さらに悪いことに、イランは1月初めに、ナタンツの核施設にIAEA(国際原子力機関)が取り付けた封印を取り外し、ウランの濃縮に関する研究を再開した。
ドイツやフランスが、交渉によってイランの核開発計画に歯止めをかける努力は、事実上破綻したというべきだろう。
核カードをちらつかせながら、西側を手玉に取る手法は、北朝鮮に似ている。ポピュリスト(大衆に迎合するタイプの政治家)・アマディネシャド氏は、過激な発言と核開発によって、イスラエルおよび欧米との対決姿勢を高めようとしているのだろう。
このままの状態が続けば、核問題が国連安保理に提出され、イランに対する経済制裁が決議される可能性もある。
米国は水面下で、イスラエルに対して、かつてイラクの原子炉を爆撃したように、イランに先制攻撃を行わないように、釘を刺しているに違いない。
経済制裁を受ければ、イランはさらに孤立し、過激になるだろう。
中東の悪循環に終止符が打たれるのは、いつのことか。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年2月4日