対テロ戦争の不毛
米軍が電撃作戦でイラクを占領し、サダム・フセイン政権を転覆させてから2年以上経ったが、同国の治安は回復していない。
爆弾テロで一度に20人以上の市民が死亡するような事件は、日常茶飯事になってしまい、欧米の新聞でも大きくは取り上げられなくなった。
また外交官らが誘拐されて、殺害される事件も増えている。
サダムという暴君が排除されたことが、中東にとってプラスであることは間違いない。
しかし抵抗勢力によるテロ攻撃はやまず、シーア派、スンニ派、クルド人の和解も進んでいない。
ゲリラ攻撃も次第に巧妙化しているため、すでに米軍には1800人の戦死者が出ている。
化学兵器などの大量破壊兵器は全く見つからず、ブッシュ政権の戦争の動機が、実はいい加減な情報に基づいていたこともわかった。
「化学兵器や放射性物質がアル・カイダに流れるのを防ぐ」という米国の狙いは理解できるにしても、CIAやNSAが収集した情報に基づく、主権国家に侵攻するという重大な行為の理由づけが、これほど薄弱だったのは、驚くべきことである。
あるドイツ外務省の幹部は、「ラムズフェルド国防長官が、アル・グライブ刑務所でのイラク人虐待の責任を取って、辞任しないのは理解できない」と語っていたが、ヨーロッパ人の常識から言えば、確かにトップの監督責任が問われないのは、不可思議なことである。
この事件は、イスラム教徒の間で、米国の信用性を深く傷つけ、憎悪を煽る原因となっており、末端の兵士の処分だけで、済む問題ではない。
こう考えてくると、2001年9月以降行われている「対テロ戦争」は、本当にブッシュ大統領が言うように、順調に進んでいるのか、疑問に思えてくる。
ロンドンでの同時テロに見られるように、殺戮に対し殺戮で応える悪循環が続いているだけなのではないのか。
同時多発テロで2000人を殺された米国が反撃せざるを得なかったことは理解できるが、お門違いのイラクに侵攻することによって、新たなテロの連鎖を引き起こしたような気がしてならない。
ワシントンのカーネギー国際平和財団のジェシカ・マシューズ所長も、私の取材に対して、「イラクが米国の直接の脅威だったとは思わない。イラク戦争が、テロリストにとって、新たな志願者を募集するための口実として利用される恐れがある。イラク侵攻は政治的には愚行だった」と述べている。
対テロ戦争の終着駅は、ますます深く、霧の中に包まれている。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年8月20日