イラク戦争・シュレーダー政権による支援疑惑

アメリカのイラク侵攻から丸3年が経ったが、紛争解決のめどは立っていない。

ブッシュ政権が戦争の大義名分としていた、化学兵器などの大量破壊兵器は、全く見つからなかった。

テロリストたちは、イラクでシーア派とスンニ派を衝突させて、内戦を起こすために、イスラム教の聖地の一つであるモスクを爆破するなど、過激な行動に出始めた。

米軍やイラク治安当局を狙った、爆弾テロも後を絶たない。米国民の間にも戦争に批判的な空気が広がり始めている。

こうした中、ドイツでは、「シュレーダー政権が表面的にはブッシュ政権のイラク侵攻を批判しながら、裏では秘かに戦争を支援していた」という疑惑が浮かんでいる。

まずドイツの新聞にリークされたのは、バグダッドに駐在していたドイツの
BND(連邦情報局)の要員たちが、空爆の際に参考になる情報を、米軍に流していたという事実。

政府は、「学校や病院などが誤爆されないように、情報を流していたが、軍事目標については通報していない」と主張している。

さらに「ニューヨークタイムズ」の軍事記者マイケル・ゴードン氏が、「バグダッドの防衛ラインに関する略図を、サダムフセインに近いイラク人がBNDの要員に渡し、ドイツ人は米軍にこの略図を提供した」という内容の記事を発表した。

もしもこのことが事実ならば、ドイツの諜報機関が米軍に軍事資料を手渡していたことになる。

ドイツ政府は、「そのような略図の存在は関知していないし、米軍に渡した事実もない」として、この疑惑を全面的に否定している。

この種のスキャンダルの背後には、必ず情報をリークする者の、意図が潜んでいる。

なぜ今、「シュレーダー政権が米軍を支援していた」ことを示唆する情報が、暴露されるのだろうか。

それは、シュレーダー前首相やフィッシャー前外相が、表面的には戦争についてアメリカを批判していながら、実は裏でアメリカに協力していたという疑惑を噴出させることによって、赤緑政権の偽善性を暴露しようとする意図である。

特にブッシュ政権にとっては、政権が交代した今こそが、前首相の信用を失墜させるための好機なのであろう。

ドイツはイラク戦争中、対化学戦用装甲車「フクス」の部隊を、イラクの隣国のクウエートに「災害支援」という名目で駐留させた。

また、米軍に代わってドイツ国内の基地の警備を行ったり、イラクへ向かう軍用機の飛行を妨害しなかったりするなど、すでに間接的な戦争支援を行ってきた。

だがもしもゴードン記者の主張が正しいとすれば、ドイツは、政府が主張する以上に、軍事的性格の強い支援を行っていたことになる。

通常、議会の調査委員会では世間を驚かせるような内容は表われない。

だが、ドイツ連邦議会のイラク戦争支援問題調査委員会では、できるだけ多くの軍事、政治にまつわるディテールが、暴露されることを期待する。


週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年3月31日