イラク選挙後の欧米関係
1月末にイラクで初めて行われた選挙で、有権者の7割から8割もの人々が、テロの危険を顧みずに投票したことは、混沌の続くイラク情勢の中で、一筋の明るい光である。
投票を妨害しようとしたテロリストの試みは、失敗に終わり、イラク人たちは新しい社会を建設するための大きな一歩を踏み出したと言える。
もちろん、暫定政権のアラウィ首相が「我々はテロリストに勝利した」と手放しで喜ぶのは、早すぎる。
果たして米軍が撤退しても、イラク政府が内戦の危機を抑えることができるかどうかは、未知数だからである。
ところでこの選挙後、ブッシュ大統領の独仏に対する姿勢が、大きく変わった。彼は自らシラク大統領とシュレーダー首相に電話をかけ、イラクの再建について協力を求めたが、これほど積極的に、彼が独仏との関係改善をめざすジェスチャーを示したのは、初めてのことだ。
また2月3日には、ドイツのシリー内務大臣がホワイトハウスで、安全保障担当補佐官と話をしていたところ、突然ブッシュ大統領が飛び入りで会談に参加し、シリー氏と30分にわたって話をした。
内務大臣のような、比較的地位の低い閣僚との会談に、大統領がこれだけ時間を割くのは、異例のもてなしと言うべきであり、米側がドイツとの「雪どけ」をめざしていることが、うかがわれる。
ライス新国務長官も、最初の外遊でイラク戦争反対の急先鋒だったフランスを訪れ、米欧関係の改善に力を注ぐ姿勢を強調した。
米国にしてみれば、選挙後のイラクの治安回復とインフラ再建に、独仏を含むEU(欧州連合)を本格的に参加させたいのだろう。だが、両国ともイラク侵攻を拒絶してきた経緯があるために、イラクの警察官に対する研修も、同国の外で行うことを条件にしており、現地への人員派遣は断固として拒否している。
独仏両国にとっても、どの道を取るかの選択は、容易ではない。イランの核疑惑をめぐって、米国が武力行使に走らないように説得するためにも、独仏がブッシュ政権との関係改善に努めることはもちろん重要だ。
しかし、大量破壊兵器があるという確たる証拠もないのに、他国を侵略して、政権を転覆させるという米国の新しい政策を、是認するわけにはいかない。
あまりにも性急な雪どけは、イラク戦争に反対している多くのヨーロッパ国民を失望させることになるだろう。
その意味で、シラク氏とシュレーダー氏は、ブッシュ氏の友好的なジェスチャーに幻惑されずに、米国の真の狙いをはっきりと見極めるべきである。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年2月12日