中東の核軍拡を防げ

 

今年9月に、イスラエルに2週間滞在した。

この時には、テロリストの侵入を防ぐために、レストランの前に立っているガードマンの数が減り、出国時の空港での検査も比較的簡単に済んだので、「自爆テロに対する警戒がゆるんだようだ」と感じた。

またテルアビブもエルサレムも、米国やフランスからの観光客で賑わっていた。

だが、それは嵐の前の静けさにすぎなかったようだ。

10月末にイスラエル北部のハデラで、イスラム聖戦機構が起こした自爆テロによって市民5人が殺害され、2004年8月以来の事実上の停戦状態に、ピリオドが打たれたのである。

イスラエル政府のシャロン首相は、ガザ地区に対する空爆を命じるとともに、戦闘部隊を再びヨルダン川西岸地区に投入し、イスラム聖戦機構の摘発に乗り出した。

これでシャロン政権は、パレスチナ自治政府がテロを十分に取り締まっていないとして、アッバス代表への圧力を高めるだろう。

第3のインティファーダ(パレスチナ人の反イスラエル闘争)の発生を危惧する声もある。

一方イランのアハマディネシャド新大統領は、10月末に「イスラエルを地図の上から抹消しなくてはならない」と発言して、ドイツ政府を初めとするEU加盟国から、強い批判を浴びた。

今年大統領に選ばれたアハマディネシャド氏は、保守強硬派として知られていたが、この好戦的な発言によって、イスラエルへの敵意に燃える政治家だということが改めて確認された。

私が今年夏に米国で会った安全保障問題関係者たちは、「イランが核爆弾を保有するのは時間の問題」という見方で一致していたが、権力の頂点に立つ人物が、こうした発言を堂々と行うのを見ると、イランがおとなしく米国やヨーロッパ諸国の言うことを聞いて、核兵器開発をあきらめるとは到底思えない。

イスラエルがすでに核兵器を持っていると思われることから、イランも抑止力を確保するために、核兵器の開発を急ぐ可能性が高い。

イスラエルはイランの核武装や長距離ミサイルの開発に神経を尖らせているが、アハマディネシャドの発言で、今後はイランとの対決姿勢を一段と強める恐れがある。

中東での核軍拡競争は、なんとしてでも避けなくてはならないが、米国はイラクの泥沼に足を取られて身動きが取れない状態にある。

このため、ドイツなど
EU諸国がリーダーシップを握ってイランへの働きかけを強め、強硬派が暴走しないように工作を行う必要がある。

ヨーロッパに負わされた責任は重い。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年11月4日