中東・誘拐ビジネスの恐怖
日本でもドイツでも、イラクで誘拐されて無事解放された人は、世論の厳しい批判にさらされるようだ。
去年12月中旬に自由の身となったズザンネ・オストホーフさんは、イスラム教徒なので、ドイツのテレビ局とのインタビューでは、目だけを出して顔を完全に覆うチャドル姿で画面に現れた。
この風貌は、ドイツ市民に強烈な違和感を与えたようである。
さらに「イラクに戻って働きたい」と発言したと伝えられたことから、世論だけでなく政府からも批判を浴びた。
家族と絶縁関係にあったせいか、命乞いをしてくれた母親に救出後も電話すらかけなかったことも、かなり印象を悪くした。
政府は公表しないが、身代金などが犯人グループに支払われた可能性は強く、対策本部に詰めていた外務省の職員らにすれば、「再びイラクに行くなど、言語道断だ」という気持ちだろう。
だが一難去ってまた一難。
クリスマスには、イエメンで休暇旅行中だった、元外務次官でワシントン大使も務めた、ドイツ外務省の元超エリート、ユルゲン・クボルク氏が、家族とともに武装グループに誘拐された。
彼は、現役時代にサハラ砂漠でドイツ人が誘拐された事件などを担当しており、年金生活者とはいえ、中東での観光旅行の危険を熟知していたはずだ。
しかも彼は誘拐される直前にオストホーフさんの態度について、「危険に陥ったり、誘拐されたりすると、すぐに国が救出してくれるのが当然だと思っている人がいる。社会保障制度だとでも考えているのだろうか。このような態度は、受け入れがたい」と批判していた。
だが今度はその当人が、わざわざイエメンへ行って誘拐され、世間に迷惑をかけるのだから、開いた口がふさがらない。
本人は「イエメンは危険ではない」と主張しているようだが、部族間の抗争で緊張している地域で、護衛もつけずに車で旅行するのは、元外交官としては軽率のそしりを免れない。
中東の紛争地域などでは、抵抗勢力のために資金を調達したり、部族間抗争をめぐって現地政府から譲歩を引き出したりするために、外国人が人質として乱用される危険が高まっている。
特にイラクでは、誘拐が日常茶飯事だ。そうした「誘拐ビジネス」の犠牲とならないためにも、旅行先の選択には、気をつけた方がよいのではないだろうか。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年2月10日