ロンドン同時爆破テロの恐怖
2012年・夏季五輪招致決定で、喜びにわいていたロンドンは、翌日一転して衝撃と混乱に包まれた。
7月7日にロンドンの地下鉄とバスで発生したテロは、多数の市民を無差別に殺傷することを狙った、卑劣な犯罪である。被害にあわれた方々に、心からお見舞いを申し上げたい。
この事件は、ほぼ同時に数ヶ所で爆発物を炸裂させ、通勤ラッシュ時の交通機関を標的とするという点で、去年3月にマドリードで発生した同時テロと酷似している。
ニューヨーク、ワシントン、タンザニア、ケニア、イスタンブールでの事件でも見られたように、テロを異なる場所で、ほぼ同時に実行するのは、アル・カイダの筆跡である。
スペインの当時のアズナール政権と同じく、ブレア首相が米国の対テロ戦争を積極的に支援していることを考えても、アル・カイダに関連のある組織が起こした事件である可能性が強い。
またモハメド・アタらが、9・11事件で米国の経済力の象徴である世界貿易センターと、軍事力の象徴であるペンタゴンを攻撃したことに見られるように、アル・カイダは「西側の象徴」を狙って政治的な筆跡を残すという特徴がある。
今回、ブッシュ大統領を初めとする先進国首脳が、G8サミットのために英国に集まっている時を狙ったことは、「我々は警備が強化されている国の首都でも、同時にテロを実行する組織力を持っている」という政治的なメッセージを、テロ組織が送ろうとした可能性がある。
さてアル・カイダの狙いは、市民に被害を与えることによって、米国と同盟国との間にくさびを打ち込むことである。
だが米国と「特別な関係」(special relationship)を持つブレア政権は、スペインとは異なり、テロに屈して、イラクから撤兵することはないだろう。
第二次世界大戦での経験を考えても、叩かれるとかえって頑強に抵抗する「ジョン・ブル魂」を発揮して、むしろ米国との連帯を強化する可能性が強い。
しかし狙われているのは、英国だけではない。
アフガニスタンに派兵しているドイツ、イラクに自衛隊を派遣している日本も、アル・カイダのテロの標的となる可能性がある。
捜査関係者の間では、大都市でのテロの危険を完全になくすことは、ほぼ不可能に近いと見られており、ロンドンでの惨劇は、都市生活者にとって、決して他人事ではない。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年7月15日