ロンドン同時テロとイスラム
ロンドンの地下鉄とバスを狙った爆弾テロ事件について、捜査当局は、監視カメラの映像の分析から、4人のパキスタン系英国人による自爆攻撃と断定した。
欧州で、イスラム過激派による自爆テロが発生したのは、今回が初めて。
「欧州のイスラエル化」が始まったという指摘もある。英国政府が、「全てのイスラム教徒がテロリストであるわけではない」として、人々に自制を呼びかけ、イスラム教徒への一部の市民の攻撃を強く糾弾している態度は、評価できる。
しかし、イスラム教徒の比率が米国よりもはるかに高い欧州では、問題の根ははるかに深い。
パキスタン移民を親に持ち、英国で生まれ育った、18才や22才の若者たちは、なぜ爆薬入りのリュックを背負い、市民を無差別に殺傷する死出の旅に行くために、地下鉄駅の階段を降りていったのだろうか。
彼らは誰から、狂ったジハード(聖戦)の思想を吹き込まれて、自爆テロリストに変異したのだろうか。
その経緯を解明することは、監視カメラから犯人を特定するよりも、はるかに難しい作業だが、第2、第3の事件を防ぐためには、絶対に必要である。
西欧社会への失望が、大量殺人に直結する思想は、不気味である。
自己の死を受け入れてまで、西側に打撃を与えようとする姿勢は、9月11日事件を起こした、モハメド・アタらと共通している。
宗教の種類は違うが、救済のために多くの市民を巻き込むという点では、地下鉄サリン事件とも似た発想を感じる。
一方、オランダで映画監督ヴァン・ゴッホを殺害したイスラム教徒M・ブエリ被告が、7月12日に裁判で沈黙を破ったが、その発言も肌に粟を生じさせる。
彼は「必要ならまた同じような殺人を犯す準備がある。イスラム教を侮辱した者に対しては、首を切り落とさなくてはならないという、教義に従っただけだ。我々に苦痛と涙をもたらしたゴッホ監督の家族が悲しむのは、理解できない」と言い放ったのである。
そこには悔悟の念はなく、西欧社会への憎悪と、イスラム教を中傷する者は殺されても仕方がないという、冷血さしか感じられない。
筑波大学で、S・ラシュディーの「悪魔の詩」を翻訳した日本人の教授が殺害された事件も、間もなく時効を迎える。
日本・オランダ・英国の事件は、非イスラム対イスラム過激派の衝突の一環にすぎない。
英国政府はロンドンのテロとの関連づけを避けているが、今回の事件の背景に、ブレア首相のブッシュ政権に対する強い支援があることは間違いない。
アフガニスタンとイラクでの紛争に欧米と日本が関与し続ける限り、イスラム狂信主義者たちは、我々の都市を標的にし続ける危険がある。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年7月22日