ドイツ州議会選挙・大連立政権の基盤は強化されたか?
3月26日にラインラント・プファルツ、バーデン・ヴュルテンベルク、ザクセン・アンハルトの三州で州議会選挙が行われた。
大連立政権を組んでいるCDU(キリスト教民主同盟)とSPD(社会民主党)はともに、基盤が強化されたと自画自賛している。
確かにCDUは、前回同様バーデン・ヴュルテンベルク州で首位の座を守り、SPDはベック首相の個性のために、ラインラント・プファルツ州で前回に比べて0・9ポイント得票率を伸ばし、カトリックが強い地域であるにもかかわらず、CDUを寄せつけなかった。
両党は、特に旧西ドイツの二州で、左派政党や極右政党が、浮動票を集めて5%のハードルを越えることを危惧していたが、それが現実化しなかったことに、ひとまず胸をなでおろしているのだろう。
だが喜ぶのは早い。
投票率がどの州でも前回を下回ったことは、有権者の政治に対する不信感が、依然として強いことを表わしている。
大連立政権は、両党が積極的に望んで実現したものではない。
連邦議会選挙で、CDU、SPDとも通常の連立方法では、単独過半数を取れなかったことから、しかたなく選んだ道であるにすぎない。
私が興味深く思ったのは、選挙戦の期間中に、大連立政権が健康保険制度の改革について、音なしの構えを取り、有権者を刺激することを避けたことである。
健保制度の改革は、社会保障制度の改革の中で、最も重要なテーマの一つである。
メルケル政権は、どうころんでも市民の自己負担が増え、カバー範囲が狭くなることは間違いないので、この微妙なテーマが州議会選挙に影響を与えないように、この問題を一時的に棚上げにしていたのだ。
実際、選挙終了後すぐにメルケル政権は、健保改革について積極的に発言し始めた。
だが有権者にとって重要なテーマについて、選挙戦期間中に緘口令(かんこうれい)をしかなくてはならないというのは、いささか臆病な態度ではないだろうか。
各党とも、公的健康保険の保険料と、労働コストを切り離し、この国の人件費を削減することの重要性については、一致している。
問題はどのような方法で、それを行うかである。
企業の社長からも、市電の運転士からも同じ額の保険料を取るのか。
公務員や自営業者、民間健康保険に入っている市民も、公的健保に統合するのか。
最終案は固まっていない。
シュレーダー政権は、公的年金制度や失業保険制度の改革に着手したが、生活水準の低下を嫌う市民から猛反発を受け、政治の表舞台から退場させられた。
メルケル首相も、市民からの批判を覚悟の上で、健保制度にざっくりとメスを入れなくてはならない。
州議会選挙が終わった今、メルケル政権の鼎(かなえ)の軽重が問われる時が、これからやって来るのだ。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年3月7日