ドイツ人の改革嫌いと左派連合
(9月18日の議会選挙前に書かれた原稿です。)
ドイツでは、9月18日の前倒し連邦議会選挙を前に、各党が選挙戦のラストスパートに入りつつある。
最近のアンケート調査では、メルケルを擁立するCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)が40%を超える支持率を集めているのに対し、与党SPD(社会民主党)は30%にも達していない。
選挙は水物なので、最後までどのような番狂わせが起こるかわからないが、シュレーダー首相の経済政策の失敗について、国民の批判は強いので、保守勢力が7年ぶりに政治の舵を取る可能性が高いというべきだろう。
今回の選挙で注目される現象は、旧東独の政権党の後身PDSが、ラフォンテーヌら西側の左派と手を組み、選挙の大きな波乱要因となっていることである。
シュレーダー氏は、英国のブレア首相の「第三の道」を踏襲し、民間経済を活性化し、社会保障制度の解体を防ぐために、国民の自己負担を増やし、政府の役割を小さくすることをめざしたが、この政策については「あまりにも右寄りで、伝統的な社民党の路線ではない」と考えた人が多かった。
特に本来ならば社民党の重要な基盤である労働組合は、シュレーダー氏の社会保障削減に反発してきた。
就業可能者の5人に1人が失職している旧東独の市民を初めとして、いわば経済グローバル化の中で「負け犬」となりつつある人々が見つけた「心のふるさと」が、左派連合なのである。
ドイツ人は基本的に、自由競争や小さい政府が嫌いだ。
改革に総論では賛成しても、いざ各論で自分の生活水準が低められるとなると、抵抗する。
シュレーダー氏が失業保険の給付金を減らし、社会保障制度を改革しようとしたことは、経済競争力を高める上では、正しい路線だったが、庶民は拒絶反応を示した。
左派連合が新しい勢力であるにもかかわらず、泡沫政党にはならず、いきなり旧東独で約30%、全国でも10%という高い支持を受けている理由は、正にそこにある。
生活水準を下げたくないと思うのは、人情だ。
だがドイツの手厚い社会保障制度は、まだ東独を背負い込んでいなかった西独が、1970年代にめざましい成長率を示していたから、可能だった。
現在のように成長率がゼロに近い状況では、とても国が全ての心配事の面倒を見ることはできない。左派連合に票を投じ、シュレーダー氏ら改革推進派に抗議するのは結構だが、社会保障サービスを維持するには、誰かがお金を稼がなくてはならない。
左派連合は、社会保障のための資金をどうやって生もうというのだろうか。
2005年9月9日 週刊 ドイツニュースダイジェスト