メルケル首相の指導力は?


10月12日にシュレーダー氏が、目に涙を浮かべながら、「私は次の内閣には属さない」と労働組合関係者たちの前で宣言して、歴史の舞台から去った。

その翌日に、ドイツの社会民主党のミュンテフェリング氏(
SPD)が、労働社会大臣かつ副首相になることを発表するとともに、外務大臣や財務大臣などのポストにつく候補者名を明らかにした。

経済協力大臣を除けば、
SPDの左派に属する人物はほとんどいない。

こうしたことから、新しい政権は環境省のトリティン大臣が行ってきたような、左翼的な政策を是正し、中道的な路線を歩むだろう。

ただし、メルケル次期首相は、コール氏やシュレーダー氏ほどの指導力を発揮できない可能性が、強まっている。たとえば、
CDUCSUSPDが10月10日に発表した、大連立に関する最初の合意書には、「閣内で意見が対立して合意が達成されない場合、どちらかの政党の意見を無視して、決定が一方的に行われることはない」と書かれている。

これは、ドイツの憲法である基本法第65条に明記されている、首相の最終決定権に矛盾するものだ。

基本法によると、閣内で担当大臣の意見が対立し、両者が合意できない場合、首相が「方針に関する権限」
(Richtlinienkompetenz)を発動して、最終決定を下すことができる。

たとえばシュレーダー氏は、社民党と緑の党の意見が対立した場合、常にこの権限を使って緑の党の意見を、無視してきた。

ところが、大連立政権ではメルケル次期首相は、この奥の手を使うことは許されない。

これは、首相の権限が大幅に制限されることを意味している。

次期経済大臣となる、バイエルン州のシュトイバー首相も、「首相が持つ古典的な決定権は、大連立政権では、限られた形になる」と語っている。

つまり
SPDは、メルケルが「方針に関する権限」を使って、SPDの反対にもかかわらず、ある政策を押し通そうとした場合、大連立政権を崩壊に導くことができるのだ。

そう考えると、メルケル次期首相の指導力はきわめて限られており、新政権の政局運営能力は、これまでの政権に比べると劣る可能性が強い。

首相が決まるまでに投票から3週間もかかったことに現われているように、政策決定に、多大の時間が費やされるため、迅速な行動ができない危険がある。

読者の皆様もご承知のようにドイツ人は、気が短く、すばやく白黒をつけたがる民族だ。

その意味で、メルケル政権の行方には分厚い暗雲が垂れ込めているというべきではないだろうか。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年10月22日