ネオナチ政党の禁止を求める
今年はアウシュビッツ強制収容所がソ連軍によって解放されてから、60年にあたる。
ユダヤ人を中心に150万人が殺害された同収容所の跡地は、ナチスドイツが殺人工場による初の大量虐殺を行ったことを、永遠に歴史にとどめるための、悪のモニュメントである。
私は2度取材のために訪れたが、カメラマンが犠牲者から刈られた頭髪の山をビデオで撮影している時に、モニターの中に、まだ青いリボンが付いたままの、金髪のお下げを見た。それは、たった今子どもの頭から切り取られたばかりであるかのように、鮮やかな色をしていた。
私は髪の束を見つめている内に、吐き気がこみ上げてきて、外に出ずにはいられなかった。ヨーロッパに住んでいる方には、是非一度は訪れて頂きたい場所である。
ところで、去年ザクセン州議会選挙で、ネオナチ政党NPDが躍進して、12の議席を得た。彼らは、今年議会で行われた、アウシュビッツの犠牲者を悼む式典で退場したばかりではなく、議会の演説でドレスデン大空襲を、「爆弾によるホロコースト」と呼んだ。
この種の発言は、ユダヤ人虐殺を過小評価する試みとして見られ、「国民扇動罪」として刑事訴追の対象になる。ところが、ドイツの基本法によると、議員は議場での発言については刑事訴追から免れている。つまりネオナチたちは、訴追されないことを悪用して、議会をプロパガンダの場に使っているのだ。
しかも、彼らは議員活動費として、毎月約12万ユーロ(約1680万円)を州政府から支給されている。州政府が国民の血税によって、ドイツの憲法制度の破壊と、外国人の追放をめざす団体の、活動を支えていることに、強い怒りを覚える。旧西独のドイツ人たちは、「泡沫政党だからすぐに消えるよ」と過小評価しているが、NPDは他の極右政党DVUと票の食い合いを避けるために、事前協議して候補者を調整するなど、悪知恵をつけ始めている。
連邦憲法裁判所にNPDの禁止を申請しながら、手続き上のミスによって失敗した、ドイツ政府のシリー内務大臣の責任は、重い。政府は「NPDの禁止は難しいので、政治的に対決する」という態度だが、NPDを野放しにしておけば、ドイツに外国から向けられる目は厳しくなるだろう。
政府の解放60年記念追悼式典で、アウシュビッツの生存者が「裁判官は、民主主義の敵と戦うために、そろそろビロードの手袋をとるべきだ」と言ったように、ドイツ社会はネオナチ政党の禁止を含めた、より厳しい措置を取るべきではないだろうか。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年2月5日