パレスチナ和平交渉の前進を

インド洋大津波のニュースのためにあまり注目されなかったが、パレスチナ自治区で行われた選挙で、PLOの穏健派アッバス氏が、故アラファト氏の後継者として、自治政府の議長に選ばれたことは、中東和平の実現へ向けての重要な一歩である。

特にイスラエル側が、パレスチナ市民の投票がスムーズに行われるよう配慮した上、シャロン首相がアッバス氏と会談する方針を明らかにしたことは、多年にわたる流血で険悪になっている両者の関係が、ようやく希望の持てる方向に進み始めたことを示している。

さらにアラファトを和平実現への障害物と見ていたブッシュ大統領が、アッバス氏とホワイトハウスで会談する用意があると表明したことも、この地域の緊張緩和に欠かすことのできない米国政府が、調停活動に前向きの姿勢を見せ始めたことの証しとして、重要だ。

だがアッバス氏に課せられた使命は重い。彼は「ハマス」などの過激組織の、イスラエルに対するテロ活動を抑えるという、アラファト議長が達成できなかった課題を実現しなくてはならない。これらの組織は選挙のボイコットを呼びかけ、イスラエル敵視の姿勢を崩していない。イスラエル政府は、アッバス氏がテロの封じ込めに失敗した場合、アラファトを見捨てたように、彼を和平交渉のパートナーとして見限るだろう。

今後過激組織が、アッバス氏の面目をつぶすために、イスラエルへの自爆テロをエスカレートさせる危険もある。一方シャロン首相は、ガザ地区撤退に反対している国内の保守派ユダヤ人を、どう抑えるかという難題を抱えている。ガザやヨルダン川西岸地区に入植しているユダヤ人の中には、イスラエルの穏健派やパレスチナ人に対するテロも辞さない過激主義者がいる。

イスラエルの捜査当局は、こうした狂信者に対する監視の目を十分光らせるべきだろう。多くの血が流された後に、いま芽生えつつある和平への希望を、イスラエル・パレスチナの双方に潜む過激派に踏みにじらせてはならない。

イラクで戦争の炎がくすぶり続ける中、米国と欧州がパレスチナ和平の実現へ向けて全力を注ぐことは、欧米とイスラム諸国の文明の衝突を危惧する多くのイスラム教徒に対しても、不信感を和らげる効果を持つだろう。

EU諸国の首脳や外交官、特に双方から一定の信頼を得ているドイツのフィッシャー外相も、米国だけに調停役を任せるのではなく、和平工作に積極的に参加するべきだ。中東の安定にとって、今年は歴史的な転換点になるかもしれない。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年1月22日