シュレーダー氏への公開書簡

拝啓 シュレーダー首相殿。

9月18日の連邦議会選挙の前には、多くの世論調査機関が、SPDの得票率は28%前後にとどまると予想していたのに、あなたの党は投票日に、34・3%の票を確保しました。

多くの報道関係者の度肝を抜いて、さぞ気持ちが良かったことでしょう。

投票日の夜の党首座談会で、あなたが報道機関に対して、乱暴な発言をされたのも、
CDUCSUにわずか0・9ポイントの所まで肉迫できて、有頂天になっておられたからでしょう。

しかし考えてみて下さい。

過半数は取れませんでしたが、この選挙で第一党になったのは、メルケル候補の率いる
CDUCSUです。

あなたが率いていた
SPDは、前回の選挙に比べて四ポイントも得票率を減らしたのです。

それは、国民があなたの失業対策が不十分だったことや、景気の回復に失敗したことについて、不満を表わした証拠です。

SPDの支持者の内、97万人が左派連合に移り、62万人がCDUCSUに走り、そして37万人が棄権したのは、あなたの指導力の無さを浮き彫りにしています。

それなのに、あなたがまるで選挙に勝ったかのようにふるまい、「連立政権で首相になる」という野望を捨てないでいるのは、未練がましいと思います。

私の国には、「飛ぶ鳥あとを濁さず」という諺がありますが、首相の座に固執することによって、大連立政権の誕生の妨害をしているあなたは、晩節を汚していると言われても仕方がありません。

フィッシャー外相が、選挙後にあっさりと要職から退いた潔さとは、対照的だとは思いませんか。

今この国の人々が何よりも必要としているのは、指導力を持った新しい政府が、一刻も早く誕生することです。

海のものとも山のものともつかない今の状態では、国民の間に不安と怒りが強まるばかりです。

実際、はっきりとした選挙結果が出なかったことで、市民の先行きへの不安はますます強まっており、個人消費の伸びが9月18日以降、鈍くなっています。

あなたは、戦後歴代の首相の中で初めて、大胆な社会保障改革と税制改革を実施し、イラク戦争ではかつての盟主である米国に真っ向から反対して、政治家としての判断の正しさを世界中に示しました。

さらに緑の党とともに、先進工業国としては初めて、脱原子力という大胆な実験を始めました。

1998年からの7年間で、これだけ歴史に残る働きをされたのですから、そろそろ負けを認めて、他の政治家たちにチャンスを与えてはいかがですか。

個人主義の国ドイツでは、自己主張が極めて重要なのは確かですが、政治の空白状態が長続きすれば、ドイツ政界・経済界だけでなく、ヨーロッパ全体に悪影響が及ぶかもしれません。

あなたの英断に期待しております。敬具 

週刊 ドイツニュースダイジェスト2005年10月8日