ドイツでもストライキの時代?

ギリシャやイタリア、フランスに旅行すると、空港管制官やごみ収集係、消防士などのストに出くわすことが多い。

空港で足止めを食ったり、町を埋め尽くすゴミの悪臭に辟易したりした経験がある。

そうした国からドイツへ帰ってくると、この国ではいかにストライキが少ないかに感心する。

実際、
ILO(国際労働機関)の統計によると、ドイツで労働争議のために仕事がストップする日数は、他のヨーロッパの国々に比べて、はるかに少ない。

それだけに、今年に入って伝統企業AEGの名前を持つニュルンベルクの家電製品の工場で、5週間もストが行われ、生産が完全に停止したのは、この国では珍しい事態である。

AEGといえば、19世紀に創設され、一時は無線機から原子炉、鉄道車両まで作っていた、ドイツ最大のメーカーの一つだった。

ところが無理な多角化がたたったのか、90年代半ばに企業本体は消滅して、様々な部門に分割されて切り売りされた。

ニュルンベルク工場も、スエーデンの家電メーカー、エレクトロルクスの傘下に入っており、電気洗濯機と食器洗い機を生産していた。

80年以上の歴史を持つ、生産拠点である。

しかし伝統だけでは、時代の波には勝てない。

現在ドイツの家電業界では、激しい安売り競争が行われており、親会社エレクトロルクスは来年末までに、ニュルンベルク工場を閉鎖して、ポーランド工場での生産を増やすことを決めた。

1700人の労働者たちが、今年1月に寒空の下、工場の正門前に陣取りストに突入したのは、エレクトロルクスの工場閉鎖の決定を撤回させるためである。

ドイツで最も強力な産業別組合
IGメタルが、経営側との交渉にあたった。

だがグローバル企業エレクトロルクスは、「ニュルンベルク工場では労働コストが高いために、生産すればするほど損失が出る。このような状態のまま操業を続けるわけには行かない」と主張し、議論は平行線をたどった。

結局、組合側は退職金の額を大幅に引き上げることを条件に、泣く泣く工場閉鎖を受け入れた。

また一つ、伝統的な生産拠点の灯が消え、1700人の従業員たちは、別の職場を探すか、予定よりも早く定年を迎えるか、もしくは失業者になる。

IGメタルも、経済グローバル化の波には勝てなかったのである。

ポーランドの労働者の1時間あたりの労働コストは、旧西ドイツのわずか8分の1。

経済グローバル化の時代に、ドイツの労働コストは、あまりにも高すぎるのである。

有名なタイヤメーカーであるコンチネンタルでも、今年は工場閉鎖をめぐって、労働争議が起きている。

医師や看護婦、公務員も待遇改善を求めて、ストを行った。

生産施設の国外移転や、産業の空洞化が進むにつれて、今後はドイツでもストが増え、「ストの少ない国」という名声は過去のものになるかもしれない。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年3月17日