トルコEU加盟交渉・壮大な実験
今年10月初めに、EU(欧州連合)は、トルコと正式な加盟交渉を開始することを決定した。
オーストリアの反対にもかかわらず、欧州委員会は「交渉の最終的な目標は、正式加盟である」という一文を、交渉の枠組みに関する合意書に盛り込んだ。
欧州共同体と提携合意書に調印してから42年間にわたって「ヨーロッパ城」の門前で待ち続けたトルコは、EU加盟という悲願達成に向けて、大きな一歩を踏み出したのである。
正式加盟までにはさらに10年以上の歳月がかかるだろうが、トルコにとって交渉開始が、歴史的な里程標であることは間違いない。
オーストリアに限らず、欧州諸国では、トルコのEU加盟に反対する声が強い。
ドイツの次期首相になるメルケル女史も、加盟には反対しており、トルコを「優遇されたパートナー」の地位に留めるべきだと主張している。
たしかに、この国がEUに加わった場合の衝撃波は、チェコやポーランドなど中東欧諸国の比ではない。
人口は7200万人で、英国やフランスをはるかに上回り、ドイツに次いで二番目に人口が多い加盟国となる。
しかも、人口の80%がイスラム教徒である。
ドイツ人の中には、「トルコがEUに加盟したら、イラクのような紛争地域とEUが隣り合わせになり、テロの危険が高まる」という懸念も出ている。
さらに、EUにとってはトルコへの経済的な援助によって負担が増加する。
トルコは現在のEUの人口の16%を占めるが、国内総生産ではEUの1%にも満たないからである。
だが、EU加盟を実現するために、トルコで死刑や拷問の廃止、法治国家の整備、人権の重視など、社会の改革と民主化が進むことは、好ましい。
過激なイスラム勢力の拡大に対抗する意味で、穏健なイスラム国家の誕生は、重要である。
EUは非欧州文化圏の国を受け入れることで、周辺地域の安定化という副産物を手に入れられるかも知れない。
かつてオーストリア人が、オスマン・トルコとの戦争中にトルコ人が飲んでいたコーヒーを発見して、欧州全体にこの飲み物が広がったように。
EU創設以来最も大胆な試みの一つであり、プラスの面にも注目する必要がある。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年10月28日