州議会選挙で、再び極右躍進
9月17日に、旧東ドイツのメクレンブルク・フォアポンメルン州とベルリンで州議会選挙が行われたが、懸念されていた事態が起きた。メクレンブルク・フォアポンメルン州で、ネオナチ政党NPDが、得票率を前回の0・8%から、7・3%に大きく伸ばして、同州の議会に6議席を獲得することに成功したのだ。極右に票を投じた人の数は、4年前の選挙に比べて7・7倍に増えて、約6万人になった。
同州では、伝統的な政党が大幅に票を減らした。SPD(社会民主党)の得票率は、40・6%から10・4ポイント減った他、CDU(キリスト教民主同盟)も、3ポイント近く得票率が下がった。投票率が2002年の70・6%から、59・2%に大きく下がったことは、現状に落胆している有権者がいかに多いかをはっきり表している。
ドイツでは、ワイマール時代に、小さな政党が乱立して政局を混乱させた経験から、得票率が5%未満の泡沫政党は、議会に会派として進出することができない。今回極右政党が、5%の壁を破って議席を確保した裏には、有権者の政治への関心が低く、投票率が低迷したことも影響している。
NPDは、外国人を社会保障制度から締め出すことなどを提案しており、その綱領を読めば、州議会に議席を持つ適格性に乏しいことは明らか。憲法擁護庁による監視の対象にもなっている。このような党に市民が票を投じるのは、現体制への抗議票以外の何物でもない。メクレンブルク・フォアポンメルン州は、市民一人当たりのGDP(国内総生産)がドイツで最も低く、失業率も一番高い。もともと農業を基幹産業とする州だったために、統一後の経済再建が最も進んでいない地域である。
私は去年メクレンブルク・フォアポンメルン州の各地を取材のために回った。州都シュヴェリーンでは、歴史的建築物が美しく修復され、西側と同じようなショッピングセンターが開かれており、表面的には復興が進んでいるように見える。しかし、市民と話をすると、西側の企業がメクレンブルク・フォアポンメルン州になかなか投資しないので、将来に不安を抱いている人が多いことに気がついた。ハイリゲンダムの、宿泊料金が1泊300ユーロの超高級ホテルを、道路の反対側からじっと見つめる初老の旧東ドイツ市民がいた。
多くの若者たちが、メクレンブルク・フォアポンメルン州では職が見つからないので、今も旧西ドイツに移住している。旧東ドイツの経済が離陸せず、雇用が拡大しないことが、メクレンブルク・フォアポンメルン州で極右への支持が増大した大きな理由の一つである。
NPDが州議会に進出するのは、2004年のザクセン州議会選挙に続いて、2回目。ドイツ・ユダヤ人中央評議会のシャルロッテ・クノープロッホ会長は、メクレンブルク・フォアポンメルン州議会選挙の結果について、「政治に対する破産宣告だ」と厳しく批判した。ユダヤ人や、過去との対決に関与するNGO(非政府組織)の関係者の間では、懸念が強まっている。メルケル政権には、旧東ドイツの惨状に一刻も早く何らかの手を打ってほしいものだ。
筆者ホームページ http://www.tkumagai.de
週刊ニュースダイジェスト 2006年9月30日