ドイツ連邦議会選挙・二大政党「敗北」の背景
シュレーダー首相と、CDU(キリスト教民主同盟)メルケル党首のテレビ討論を見た時、メルケル女史は負けたと思った。
彼女は、どのようにして失業者数を減らし、経済成長率を回復するのかについて具体的な政策を打ち出さず、ひたすら「政治を変えなくてはならない」と呪文のように唱えていたからである。
しかし、9月18日に行われたドイツ連邦議会選挙で、挑戦者であるCDU・CSUは、当初の予想をはるかに上回る低迷ぶりを示した。
得票率が、前回の2002年の選挙での得票率を下回り、自由民主党(FDP)と連立しても過半数を確保できないというのは、メルケル女史にとって事実上の「敗戦」である。
特にシュレーダー政権が、失業者数の削減や、経済成長率の回復に失敗し、社会保障制度改革の影響で国民の間で不評を買っていたことを考えると、CDUがSPD支持者や無党派層の票をひきつけられなかったことは、メルケル女史の戦いぶりがいかに魅力に欠けていたかを物語っている。
SPDに愛想をつかした人々の票は、東ドイツの旧政権党と、SPDを脱退した政治家が作った左派連合に流れた。
彼らは、シュレーダー氏が着手し、メルケル女史が継続する社会保障制度の削減などの構造改革に、「ノー」という姿勢を示したのだ。
左派連合はドイツを経済停滞から救う具体的な手段は提示していないが、不満を持つ市民は、抗議票をこの党に集中することによって、保守・リベラルの二大既成政党がともに通常の連立方式では、過半数を取れないという、異常事態を生むことに成功したのだ。
その意味で今回の選挙で勝ったのは、構造改革に対する抵抗勢力だったと言えるだろう。
フランスとオランダの市民たちが、欧州憲法をめぐる国民投票で、批准を拒否し、政財界のエリート層に対して「社会保障削減や、産業の空洞化につながる、経済のグローバル化はごめんだ」というメッセージを送ったのと、似た現象である。
CDU・CDUとSPDが組む大連立にせよ、CDU・CDU、FDP、緑の党が組む形式にせよ、新しい政権では首相の指導力が低下し、閣内での意見対立のために、政局運営がこれまで以上に難しくなることは必至だ。
今回の選挙結果は、既成政党への国民の信頼が地に墜ちたことを象徴する物として、歴史に残るに違いない。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年5月25日