大連立政権の憂鬱な船出
「この国は、信じられないほど大きな問題に直面しており、私たちの行く道は困難なものになる」。
11月14日に、メルケル次期首相が語った見通しは、SPD(社会民主党)とCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)が樹立した大連立政権の試練を、浮き彫りにしている。
3週間にわたる交渉の末に完成した、130ページの連立協定はそのことを如実に表わしている。
ドイツは2002年から、ユーロ安定協定に違反し続けており、2007年には財政赤字が国内総生産に占める比率を3%未満に減らさなくてはならない。
このため、メルケル政権は350億ユーロ(4兆9000億円)という天文学的な金額を、歳出削減や歳入増加によって、節約しなくてはならない。
新政権は、付加価値税を現在の16%から19%に引き上げたり、富裕層に対する所得税の最高税率を上昇させたりすることによって、歳入を大幅に増やすとともに、住宅や家を購入する際の補助金などをカットするという大ナタをふるった。
だがこうした施策、特に付加価値税の引き上げについては、経済学者や財界関係者から、「現在でも冷え込んでいる消費性向に、さらに冷水を浴びせかけるものであり、景気に悪影響を及ぼす」という危惧の声が出されている。
同時にメルケル政権は、「雇用を創出し、失業者数を減らす」ことを重要な目標に掲げた。
このために、ドイツの労働費用を高くしている年金保険、健康保険、失業保険、介護保険など社会保障制度のコストを減らし、企業の国際競争力を高めて雇用を促進させる必要がある。
この面については、メルケル新政権の連立協定の文章の歯切れは悪い。
たとえば、連邦予算から行われている公的年金への補填は将来中止されるので、失業保険の料率は再び上昇することになった。
また、社会の高齢化に伴い、公的健康保険の改革が急務となっているが、連立協定はこの点について何も述べていない。
つまり、両党の間で意見が大きく分かれている問題については、改革を先延ばしにしたのだ。赤字が拡大している介護保険制度の見直しも先送りにされた。
いずれにしても、厳しい負担が市民を待ち構えている。
これまでは車で通勤している勤労者は、通勤にかかる費用を課税対象額から控除することができたが、今後は通勤距離が20キロメートルを超えた場合のみ、控除が許される。
年金の支給開始年齢も、現在の65歳から67歳に引き上げられることが決まった。
これは事実上、年金支給額の削減である。
鞭打たれるのは、われわれドイツに住む庶民ということになりそうだ。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年11月25日