ドイツ・大連立政権の動揺

当初から基盤のもろさが危ぶまれていたドイツの大連立政権は、発足前から早くも激震に襲われた。

まず10月31日に、SPD(社会民主党)のミュンテフェリング氏が、党首の座を退く方針を発表した。

同党の幹事長選挙で、ミュンテフェリング氏が推していた候補が破れ、左派の候補者が勝ったからである。

SPDはブランデンブルク州首相のプラツェク氏を直ちに党首の座に据えることを決めたが、ミュンテフェリング氏に比べると、大連立政権の舵取りの一人となるには、軽量級だ。

この党首交代劇は、SPDの中で、経済力強化のために構造改革を続けようとする現実派と、左派連合に奪われた票を取り戻すために、市民に痛みを与える構造改革にブレーキをかけようとする左派勢力が、激しい路線闘争を繰り広げていることを、浮き彫りにした。

さらに11月1日には、新政権の経済大臣になること内定していた、バイエルン州のシュトイバー首相が、「メルケル政権には参加せず、ミュンヘンに留まる」と発表し、CDU・CSU(キリスト教民主同盟・社会同盟)に強い衝撃を与えた。

本人は、SPDの党首交代によって、大連立政権で政局を運営する前提が変わったというのが理由だと説明しているが、それは言い訳だろう。

同氏は選挙前に「全てのドイツ人がバイエルン人のようであれば、何も問題はない。次の選挙では旧東ドイツが結果を決めるようなことがあってはならない」と発言して、旧東ドイツを初めとする他州の有権者から顰蹙(ひんしゅく)を買い、CSUの得票率を減らした。

さらに選挙前には「財務大臣になりたい」と発言していたのに、財政赤字削減の難しさに嫌気がさしたのか、選挙後には経済大臣になると方針変更して、気分が風見鶏のように変わる人物として批判が高まっていた。

「まるでだだっ子のようだ」と評されているシュトイバー氏については、バイエルンでも支持率の大幅な低下は避けられないだろう。

メルケル次期政権は、投票日から1ヵ月半経っても、発足していない。

のんびりと交渉を続けている間に、大連立合意時に党首だった、2人の重要な政治家を、連立交渉の舞台から一挙に失うという深刻な事態に陥った。

選挙のやり直しを求める声さえ出ている。牛の歩みのような政権樹立作業は、政治の空白が生む閉塞感、国民の不信感を、メルケル次期首相が軽視している表われではないか。

11月末に政権が発足する前に、大連立が空中分解したり、「幻の女性首相」に終わったりしなければ良いのだが・・・・・・。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年11月12日