EU危機・英国と独仏の亀裂
6月中旬にブリュッセルで開かれたEU首脳会議が、予算問題をめぐって決裂に終わった問題は、一部の政治家によって「EU創設以来、最も深刻な危機」と呼ばれている。
その中で浮かび上がってきたのが、英国と欧州の大陸諸国の間に、EUの未来に関して、大きな見解の食い違いが存在することである。
EU予算の46%は、農産物の補助金として使われているが、ブレア首相は、EUがこれほど多額の補助金を支出していることを厳しく批判。
この補助金を減らさない限りは、英国が1984年以来受けている負担金の減額を変更することには応じないと主張したのが、交渉が暗礁に乗り上げた端緒だった。
ブレアは「EUが農産物を補助金で支えている限り、アフリカの国々は農作物を欧州で売ることができず、貧困から抜け出ることはできない」と言ったが、彼の補助金削減への要求が、その恩恵を大きく受けているフランスを最も怒らせたことは、想像に難くない。
現在、ドイツやフランスからは、「EU予算交渉が決裂したのは、英国のせいだ」として、責任をブレア首相に負わせようとする声が高まっている。
6月末まで、欧州理事会の議長国であるルクセンブルクのユンカー首相が言ったように、欧州の未来像については、2つの考え方がある。
一つは英国のように、補助金など政府の介入を極力減らして、市場の力に委ねようとするもの。米国的な自由放任主義、競争至上主義がそこに反映していることは、言うまでもない。
もう一つは、フランスやドイツなど大陸諸国のように、EUを単なる市場としてではなく、政治的に統合された組織として、形作ろうとする考え方である。
英国が今なおユーロから距離を置いていること、イラク戦争をめぐる英国と独仏の対立を考えても、21世紀に入ってヨーロッパ内の統合に関する哲学の亀裂は、ますます広がりつつあると言うべきだろう。
ある英国の学者などは、「我々は、沈む船から逃げ出すかもしれない」と語っている。
英国と大陸の対立はEU創設当初から存在したが、今回の会議決裂で、亀裂が現在も尾を引いていることが浮き彫りになり、興味深い。
ドーバー海峡を隔てた対立がさらに深刻化した場合、EUが独仏を中心とした「統合積極派」と英国などの「消極派」という二つの派閥に分かれる可能性もある。
英国は7月1日から議長国になったが、ブリュッセルで妥協を拒否したブレア氏が、どれほど公平に、各国の意見を調整して、EU予算について合意を達成できるかは、未知数である。
いずれにしても、当分はEUから目が離せない。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年7月1日