ロシア・ガス騒動の波紋
「20]]年の冬、イスラム教過激派のテロに悩んだロシア政府は、チェチェンに軍事介入して、反体制派の徹底的な弾圧に乗り出した。欧州連合は、国連安全保障理事会にロシア非難の決議を提案する方針を公表。するとロシアはEUに対して、「非難決議を提案するならば、EU加盟国への天然ガスの供給を完全にストップさせる」と通告してきた。欧州諸国では、厳冬期に数千万世帯で暖房が使えなくなる恐れが出てきた・・・・・」。
1月初めにロシア政府のコントロール下にあるガスプロム社が、ウクライナ向けの天然ガスの供給を停止し、そのあおりでドイツなど西欧諸国へ供給されるガスまで、通常の供給量を下回るという事態が起きた。この問題は、冒頭の近未来SFのような事態が、全く夢物語ではないことを、如実に示した。
ロシア側は、「市場価格に近づけるため」と称して、ウクライナ向けのガスの値段を5倍に引き上げると宣言した。だがその背景には「オレンジ革命」以降、急速に欧米に接近するウクライナ政府を牽制するという、政治的な意図があったことは明らかだ。特にウクライナでは3月に選挙があるので、同国市民に対して、「あまりはしゃぐとガスを止めるぞ」と恫喝したのである。ドイツでは家庭の約47%がガス暖房を使っているが、ガスに関して言えば、ドイツの対ロシア依存度はすでに32%に達している。
ドイツ政府は、「天然ガス事業を通じて、ロシアとの結びつきを深め、経済発展を助ける」という名目で、同国のガスを積極的に導入してきた。ガスプロム社とドイツ企業が合同で建設する北海パイプラインをめぐり、シュレーダー前首相が、運営会社の重役になるほど、その関係は親密になっている。しかし、ロシアは西欧諸国と同じような議会制民主主義国ではない。もしもロシアとEUの利害が対立した場合、天然ガスの供給が「人質」として使われる恐れもあるのだ。ウクライナとの対立が、その可能性を浮き彫りにしたため、西欧諸国の政治家たちは、新年早々、肝を冷やしたに違いない。
私は去年10月に出版した新書「ドイツの教訓」の中で、この問題について触れ、「ドイツが対ロシア依存度を深めることは両刃の剣だ」と警告したが、正にその通りの事態となった。西欧諸国にとっては、ガスの供給先の分散を図り、ロシアへの過度な依存を避ける努力をすることが必要だろう。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年1月14日