ハリケーンとドイツ人の反米感情

米国のハリケーンには時々可愛らしい女性の名前が付けられるが、その性格は獰猛(どうもう)そのものである。

ハリケーン「カトリーナ」も、米国南部のニューオリーンズやミシシッピー州を中心に大洪水を引き起こし、多数の死傷者を出した。

水道や電気が止まり、食料の配給も滞ったことから、州兵が投入されるまでは、一部の市民が商店を略奪したり、救援ヘリに発砲したりするなど、混乱が続いた。

3万人の市民が、酷暑の中、冷房もトイレも機能しないスタジアムの中で寝泊りすることを余儀なくされるなど、世界で唯一の超大国らしからぬ、悲惨な状況が出現した。

ところでこの災害について、ドイツのユルゲン・トリティン環境大臣が行った発言が、物議をかもした。

彼は、「今回のハリケーンのように、異常な気象災害が多発する原因は、人間が引き起こしている気候温暖化のほかに考えられない」と述べた上、米国のブッシュ大統領が、温暖化ガス削減のために十分な努力をしていないと、批判したのである。

この発言に対し、米国人からドイツに対する強い批判の声が上がり、あるメディアのウエブサイトには、感情的な内容のメールが殺到した。

「これまでに100万回は聞いた、欧州の典型的な反米論だ。今度欧州で危機が起きたら、自分で解決しろ。もう米国から援けが来ると思うな」。

「こんなにひどいブッシュ大統領への中傷は聞いたことがない」。

「第二次世界大戦直後に、米国がドイツに物資を送って救援しなかったら、今頃ドイツはどうなっていたのか。ドイツ人よ、
Shut up(黙れ)」。

Schadenfreude(他人の不幸を喜ぶこと)という言葉が、なぜドイツ語なのかわかった」。

「私の祖先はドイツからの移民だったが、この発言を聞いて、ドイツ人の血をひいていることを誇りに思えなくなった」。

イラク戦争でもつれた米国とドイツの関係は、ブッシュとシュレーダーの努力で表面的には、改善の方向に進んでいたが、トリティン氏の発言で、米国の対独感情は再び悪化するだろう。

大都市の80%が水浸しになり、100万人を超える人々が住居や家財を失い、乾きと飢えに苦しんでいる非常事態の最中に、外国の政治家が、対応に追われている国の政府を間接的に批判するのは、外交の観点から言えば、決して賢明ではない。

トリティン氏は、連邦議会選挙へ向けて、ドイツ人の反米感情をくすぐって票を増やすために、京都議定書に批准しない米国をわざと揶揄したのかもしれないが、この国の左派の心に根付いている反米主義を浮き彫りにするという、負の効果しかなかったように思える。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年9月16日