外国人帰化テストをめぐる激論
2006年は、ドイツの移民問題に関する歴史の中で、大きな転換点の年として記録されるだろう。
州政府と連邦政府が初めて、ドイツへの帰化を希望する外国人に対して、語学や基礎知識に関する講座への参加を義務づけるとともに、これらの能力に関する試験を実施することを決めたからである。
どのような形式で語学能力などを試験するかについては、各州の政府に任される。
しかし、ドイツ人になることを望む外国人が、一定の語学や基礎知識に関する能力を持っていなければ、パスポートを取得できないようにする決定は、一大変化である。
ナチスドイツは、ユダヤ人や外国人を徹底的に迫害した。
ブラント元首相のように、ナチスに迫害され、他のヨーロッパ諸国が亡命者として受け入れてくれたから、命拾いしたドイツ人も少なくない。
戦後の西ドイツは、こうした経験に基づき、外国人の帰化や亡命、難民申請については、他の国に比べて寛容な態度を取ってきた。
ナチスの過酷な政策に対する、一種の反動である。
だがこの緩やかな移民政策の結果、ドイツ国籍を持っていながら、ドイツ語が満足に話せない「元外国人」も増えてきた。
経済協力機構(OECD)が実施したPISA国際学力比較試験で、ドイツの成績が惨憺たるものだったことや、外国人が生徒の83%を占めるリュトリ基幹学校で、教員たちが生徒たちの暴力の前に白旗を掲げたことなどを背景に、ドイツ人はようやく帰化に関する規定を厳しくすることを決定したのである。
緑の党や、一部の外国人組織は「この決定によって、祖国で政治的迫害を受けて、ドイツに逃げてきた外国人への門戸が閉ざされる」と批判している。
テストの実施によって、帰化を望む外国人の数は、現在よりも減ることが予想される。
だが、自分の新しい故郷になる国の言語や歴史、地理、価値観について、最低限の知識を持つことは、しごく当然のことであるように思われる。
その意味で、ドイツは移民問題について、ナチス時代の記憶に呪縛されていた、「戦後の特殊な過渡期」を終えて、他の国々と同じ方向に歩みだしたと言えるのではないだろうか。
一時導入が検討されていた、ドイツの政治、歴史、地理、文化に関する、100の質問から成る、基礎知識テストが、全国的に行われないことが決まったのは、良いことである。
もしもこのテストが行われていたら、この国に帰化できる外国人は、ほとんどいないだろう。
あるドイツ人のジャーナリストは言う。
「あのテストを、教育水準が低いドイツ人に対して行ったら、ほとんどの人が落第するだろう」。
ドイツの政界、教育界の関係者たちも、そうしたテストを外国人に行うのは、いささか酷だと考えたのかもしれない。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年5月19日