欧州政治同盟の再構築を急げ

われわれ欧州に住む人間の多くは、同じ通貨ユーロを使用し、ビジネスでも欧州の国境はますます意味を失っている。

欧州では経済統合が急速に進んでいるのに対し、政治統合は遅れていた。

このため、欧州憲法条約は、欧州大統領や外務大臣の任命、欧州議会の権限強化などによって、政治的な結束を強めることを狙っていた。

ところが、
EUで最も重要な国の一つであるフランス市民、さらにオランダ市民が、国民投票を通じて、批准を拒否したことで、欧州憲法を導入するというプロジェクトは、事実上崩壊した。

非常に残念なことである。

この地域が過去2000年にわたり経験してきた、戦争と対立の歴史を考えれば、欧州憲法によって政治的結束を強化することが、いかに素晴らしいことであるかが、理解できる。

旧ユーゴの紛争は、欧州にとってナショナリズムを放置することが、危険であることを示している。

民族主義の芽を摘み取り、多国間主義を強化することが、欧州にとってプラスになることは、明白である。

冷戦が終わって、欧州が世界で最も平和な地域になった今こそ、統合のプロセスに拍車をかけるべきなのである。

欧州の政治家や学者、報道関係者はそう考えて、欧州憲法の導入を支持してきた。

だがエリートたちは、日々の暮らしに追われて、歴史書をひもとく余裕のない、庶民の不満を過小評価した。

多くの市民にとっては、
EUは相変わらず理解しがたいブラックボックスである。

しかも、一部の市民は、
EUが東欧諸国やトルコを共同体に招き入れることによって、自分の国の工場が閉鎖されて、賃金の安い国へ移される、「グローバル化」の原因となっていると考えた。

また、
EU各国の経済競争が進むことによって、社会保障が削減され、生活水準が下がるという不安を持った者も多い。

つまり、フランスとオランダの国民投票は、憲法条約の歴史的な意義ではなく、「
EUは善か悪か」という人気投票になってしまったきらいがある。

市民はこの投票でグローバル化にノーと言ったのである。

私は欧州憲法のように複雑なテーマについては、国民投票ではなく、議会での議決によって批准の是非を問うべきだと思う。

庶民の視点を考慮せずに、国民投票にそぐわないテーマを、あえて国民投票にかけ、歴史的なプロジェクトの死を招いた、シラク大統領は退陣するべきではないか。

EU諸国の首脳は、冷却期間が過ぎたら、多国間主義を深めるという、重要な目標を念頭に置いて、政治同盟の再構築を、一刻も早く始めるべきであろう。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2005年9月2日