W杯と極右の暴力
ドイツではサッカー・ワールドカップたけなわ。ドイツ人よりも我々日本人の方が、熱狂度が高いのは、5月30日の親善試合で、日本が欧州の強豪ドイツに対して善戦し、引き分けとしたこともあるのかもしれない。中には、一泊二日で試合を見た後、日本へとんぼ返りするというファンもいる。
さてW杯の直前、ドイツでは、旧東ドイツのブランデンブルク州や、ベルリンで外国人や非白人のドイツ市民が、極右勢力の若者らに殴られてけがをする事件が目立った。特に5月25日の昇天祭の休日には、旧東ドイツで8人が重軽傷を負っている。極右勢力は、外国人に対して暴力をふるうことによって、W杯を前にしたドイツの対外的なイメージを悪くしようとしたのである。
こうした中、シュレーダー政権のスポークスマンだった、ウーヴェ・カルステン・ハイエ氏が、「ブランデンブルクには、白人ではない人は行くべきではない、危険な町がある」と発言して、社会に衝撃を与えた。特に怒ったのは、ブランデンブルク州政府や、いわゆる「NO・GO・AREA」(外国人は行くべきでない地域)とされる、ブランデンブルク州のラインスベルクなどの市民たちである。実際、このような発言をされたら、観光産業には打撃であろう。極右関係者はドイツの人口の0・05%にすぎないのだから、危険度がずばぬけて高いというわけではない。
しかし、多くのドイツ人には、極右の暴力の怖さは、我々外国人ほど理解できない。実際に外国人にとって危険な地域について、「危険だから行かないほうが良い」と指摘することは重要であり、ドイツ人はハイエ氏のごく当たり前の発言について、目くじらを立てるべきではないと思う。私の知人の日本人は、ノイブランデンブルクのレストランに入ったところ、ドイツ人の客から「このレストランは、ドイツ人専用だ」と言われたことがある。私は幸い殴られたことはないが、ブランデンブルクで「この中国人野郎」と言われて、車を叩かれたことはある。
旧東ドイツでは、極右の暴力事件が、西側よりも多いことは、残念ながら事実である。憲法擁護庁の報告書によると、ブランデンブルク州やザクセン・アンハルト州では、人口10万人あたりの極右による暴力事件の数が、最も少ないバイエルン州やヘッセン州の10倍に達している。君子危うきに近寄らず。外国人にとっては、危険が高い地域を避けることは、リスクマネジメントにつながる、必要不可欠な心構えである。仕事などで、どうしても行かなければならない時には、公共交通機関ではなく、タクシーやレンタカーを使うべきだろう。
週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年6月9日