アジアと欧州・歴史リスクの違い

日本と東アジア諸国の歴史認識をめぐる緊張は、相変わらず続いている。

4月下旬には、日本が竹島、韓国が独島と呼んでいる島の海域の測量をめぐって、あわや両国の哨戒艇が出動して一触即発の事態となるところだった。

日本の外務次官が急きょソウルに飛んで、両国は矛を収めたが、日本の政治家や官僚の中には、「測量を強行するべきだった」などと発言する者もいる。

韓国の大統領も日本へ向けて特別談話を発表し、この島の領有権問題を歴史教科書問題、靖国神社参拝問題とからめ、日本の態度をこれまで以上に厳しく批判していくという姿勢を打ち出した。

一方、小泉首相が2001年以来5回にわたり、靖国神社を参拝したことが原因となって、中国・日本両政府の間には、「冷戦状態」が続いている。

世界の二大経済パワーの首脳が、5年間も相互訪問しない状態が続いているというのは、明らかに異常である。

去年中国各地で発生した反日デモで、日本領事館や日本人が経営する商店が損害を受けたり、中国の副首相が小泉首相との会談を、直前にキャンセルして帰国したりするなど、日中関係は、1972年の国交回復以来、最悪の状態にあると言っても過言ではない。

今年3月中国の外相は、小泉首相の靖国神社参拝について「日本の指導者がなぜあんなに愚かで不道徳なことをするのか、理解できない。ドイツでは第二次世界大戦の後、ヒトラーやナチスを崇拝した指導者はいない」と述べ、個人攻撃に近い発言をしている。

ナチスによる民族虐殺と、日本軍による戦争犯罪を比較することはできない。

残虐行為の形態、規模、背景が大きく異なるからだ。

それでも、敗戦から60年以上経った今、日本とドイツが置かれた国際環境を比べることは可能だろう。

戦後の西ドイツは、ナチスを徹底的に糾弾し、「新しい国」になったことを強調。

そして
EUNATOなどの国際機関に深く身を埋めるとともに、賠償、教育、司法など様々な側面からナチス時代の過去と対決してきた。

ナチスの犯罪は決して過去の出来事ではなく、極右や外国人差別に表われているように、現代に通じる問題でもある。

ドイツの一挙手一投足は今も外国から厳しく監視されているが、同国は60年にわたって、若い世代に加害者としての歴史を伝える努力を続けてきた結果、回りの国々から一定の信頼を獲得することに成功した。

かつての被害国との関係を改善し、歴史リスクを減らすことは、雇用の3分の1を、輸出に依存する貿易立国ドイツにとって、極めて重要な前提だった。

これに対し日本は、中国と韓国との間で経済関係は拡大しているものの、敗戦から60年経った今でも、歴史認識をめぐるトラブルに悩まされている。

周囲を友好国に囲まれたドイツと、隣人との間でいさかいを続ける日本。

アジア諸国が、欧州諸国のように小異を捨てて大同に就く日は、果たしてやって来るのだろうか?

 

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2006年5月12日