テロの影に覆われた世界

8月31日にテルアビブでタクシーに乗り込んだところ、運転手が「イスラエル南部のベールシバでまた自爆テロだ!」と叫び、拳でハンドルを叩いていた。

2台のバスに対するテロで子どもを含む16人が死亡し、約100人が重軽傷を負ったが、その後数日間は、タクシーがバスの横を通過するたびに、良い気持ちはしなかった。

民間人を狙ったテロにイスラエル人たちが深い衝撃を受けていたのに対し、ガザ地区では、パレスチナ人の群衆が広場を埋め、自爆テロの成功を祝っていたのが、両者の憎悪がいかに深いかを印象づけた。

全世界を震撼させた9月11日事件から3ヶ月経ったが、地球を覆うテロの影は濃くなるばかりだ。ロシア南部のベスランでは、テロリストが小学生や教師1000人余りを人質に取って学校に立てこもり、銃撃戦の中で爆弾を炸裂させたために、約300人が犠牲になった。

死者のおよそ半数が子どもだったのは、悲惨というしかない。テロリストが、爆弾を各所に配置した、立錐の余地もない体育館の中の様子を、誇らしげにビデオに撮影していたが、その冷血さ、異常なサディズムにぞっとした。

ジャカルタでは、再びアル・カイダによると見られる自爆テロで死傷者が出た。

イラクでは、外国人誘拐や、米軍に協力するイラク市民を狙った自爆テロが後を絶たない。米兵の死者も1000人を超え、ブッシュ大統領が去年5月に「戦闘終結」を宣言した後の死者の方が、侵攻作戦における戦死者数をはるかに上回ってしまった。

大量破壊兵器のないイラクに侵攻した米国の「テロとの戦い」は、迷走を続けているように見える。これまでのところ幸い日本では、大規模なテロは発生していないし、イラクに駐留している自衛隊にも、全く死傷者は出ていない。だが、日本が米国の「有志連合」の一員であることは間違いなく、油断は禁物である。

地下鉄サリン事件は、日本の捜査当局が、計画的なテロ攻撃には有効な対抗手段を持っていないことを示した。

ドイツでの世論調査によると、ベスランの学校占拠事件以降、「イスラム社会と欧米社会の文化の衝突が起きつつある」という意見の市民が増えた。政治目的のためには、罪のない子どもたちの命も平気で踏みにじる、イスラム系過激派の蛮性に、多くの市民が戦慄したことの現れである。今後もイスラム過激派対欧米社会の戦いは、一層エスカレートするに違いない。

同時に我々は、「テロとの戦い」という大義名分の下、市民の権利や言論の自由が不当な制限を受けないように、目を光らせていくことも重要だ。

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年9月25日